研究内容:
 二重の膜と独自の遺伝子発現系を持つオルガネラであるミトコンドリアは細胞の分化状態や生活環・分裂周期の時期により個々の形状が大きく変化するのみならず、ミトコンドリア同士が融合するという観察も多くの種で報告されています。 このミトコンドリアの融合にともなってミトコンドリアの核の融合が起こることも見いだされています。我々は真正粘菌でミトコンドリア融合を誘起するプラスミドを見つけ、mF (mitochondrial fusion) プラスミドと名付けました。 mFプラスミドは、自身でミトコンドリアの融合を引き起こすことによって片親遺伝(母性遺伝)の機構を回避し、'雄株'からも必ず優位に子孫に伝達するとともに、ミトコンドリアDNAと組換えを起こすことによりゲノムの改変を行っていました。このmFプラスミドの全塩基配列を決定したところ、ORFは一方の鎖にほぼ連続して9つ存在していました。相同性検索より、ORF547はDNAポリメラーゼ、ORF309は末端結合タンパク質、ORF1130はRNAポリメラーゼであることが予想されました。 さらに、ORF640がN末端側に4つの膜貫通領域を持ち、C末端側に2つ(または4つ)のコイルドコイル構造を持っていることがわかりました。コイルドコイル構造はたんぱく質間相互作用のモチーフであり、特に同方向および逆方向の2量体、または3量体を形成することが知られています。 他の膜融合タンパク質との比較から、ORF640が膜の融合に関連したタンパク質であることが示唆されています。ORF640タンパク質は、ミトコンドリアの融合時に膜上で特異的な構造変化を行うか、もしくは局在が膜表面へと変化することによりミトコンドリア融合を引き起こしていると現在考え、解析を進めているところです。
 さて、細菌ではFプラスミド等の接合性プラスミドが自身の遺伝子によって細菌の接合を誘起し、細菌集団中に伝播していきます。一方、宿主はこの利己的な接合性プラスミドが誘起する接合過程で付随的に導入され、組換えを起こします。「接合」と「組換え」を「性」と考えるなら、利己的DNAが宿主の性を作り出していると考えることができるわけですが、また、宿主が利己的DNAの能力を利用して、自身の性を作り出しているともいえます。大腸菌の接合プラスミド因子Fによる大腸菌の接合と宿主ゲノムの組換えは原核生物の性といわれています。mFはミトコンドリアのF因子(mitochondrial F plasmid)であり、ミトコンドリアの性を作りだしているといえるのではないでしょうか。
 この研究は東京大学の黒岩常祥先生、河野重行先生を始め多くの方との共同研究でなされたものあり、感謝と共に最後に述べさせていただきます。


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