植物細胞生物学研究室
教授: 高野 博嘉

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 生物の基本単位は細胞です。植物細胞の中で光合成を行う葉緑体は、元は今の藍藻(シアノバクテリア)のような原核藻類が細胞内に共生することによって生じてきたということが分かってきています。ついでに書きますと、ミトコンドリアも元は自由に生活していた細菌であったことがわかっています。つまり、高等動植物の細胞はそれぞれいくつかの生物が共生して進化してきたものだということです。藍藻は生き物ですから、勝手にむくむくと土壌からできあがってくるということはなく、細胞の分裂によって増殖します。それと同様に、葉緑体やミトコンドリアも細胞内で組み上げられてできるものではなく、それぞれ細胞内にある葉緑体・ミトコンドリアが分裂することによって増えていきます(最初のところの画像は、分裂中の葉緑体です)。葉緑体は色素体という細胞小器官の一形態です。詳細は省きますが、葉緑体を含む色素体は光合成以外にも細胞内での重要な働きを担っており、植物細胞から色素体が無くなると植物細胞として機能しなくなってしまいます。ですから、植物細胞が細胞分裂して個体を作っていく時には同時に色素体も細胞内で増殖していかなくてなりません。細胞の分裂に色素体の分裂が追いつけないと、色素体が無くなる細胞が出現してしまって、植物には非常に具合が悪い訳です。となると、どのようにして葉緑体(色素体)は増殖するのでしょうか。実はこれ、まだよくわかっていないのです。藍藻だった時に細胞分裂に使用していたFtsZタンパク質というタンパク質を葉緑体の分裂時にも使用していること、それとは別に藍藻には存在しない(つまり共生されたホストの側の細胞が持っていたであろう)ダイナミンタンパク質も同時に使用されていること、などがわかってきています。我々の研究室では、葉緑体が増殖する時に必要とする新しい遺伝子の発見や、それらの遺伝子の機能について調べています。

 さて、葉緑体の分裂機構を調べているという訳ですが、どのように調べているのか説明したいと思います。我々は主にコケ植物蘚類のヒメツリガネゴケという植物を用いて研究をしています。ヒメツリガネゴケは、他の植物と異なり高頻度で相同遺伝子組換えが生じることが明らかにされています。ちょっと難しい用語ですが、つまりは外からある改変した遺伝子をヒメツリガネゴケの細胞に導入すると、その改変する前の遺伝子の領域と置き変わってしまう、ということなのです。他の植物では外から遺伝子を導入して、遺伝子が細胞中のDNAに入ったとしても、その場所はアトランダムになってしまうという違いがあります。この相同組換え効率が高いという性質を使うと、ある特定の遺伝子を外来遺伝子で破壊することができます。この手法のことを遺伝子破壊といいます。この遺伝子破壊法を用いて、我々の研究室で最近機能解析をしているMurEという遺伝子の破壊を行うと、葉緑体の分裂が阻害されて、巨大葉緑体が出現することがわかりました(写真参照)。このことは、この遺伝子がこの生き物で葉緑体の分裂にかかわっているということを直接的に示しています。

 また、我々の研究室では高等植物で葉の横幅を決定している遺伝子であるANGUSTIFOLIAという遺伝子をコケ植物から単離し、その機能解析も行っています。

胞子から発芽したばかりのヒメツリガネゴケの植物体。左が野生型らいん。細胞の中に見える緑の粒が葉緑体。右は葉緑体分裂が異常になったミュータントで葉緑体が巨大化している。