滝尾 進 (助教授)

連絡先
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研究内容
1.クロロフィル合成遺伝子の発現調節機構
クロロフィル合成経路におけるprotochlorophyllideからchlorophyllideへの還元反応を触媒する酵素には、反応に光のエネルギーを必要とする酵素(POR)と、必要としない酵素(ChlL/N/B)が存在します。被子植物はchlL/N/B遺伝子を持たないため、暗所ではクロロフィルを合成できません。しかし、それ以外の多くの植物はchlL/N/Bを持つため、暗所でもクロロフィルを合成できます。コケ植物のchlL/N/Bは、他の植物とは異なり光依存的に発現していました。我々は、コケ植物は、進化の過程で捨て去られたと考えられるchlL/N/Bを明所で活用しているのではないかと推定し、その遺伝子の光応答機構について研究してます。

2.CuZn-SODの分子進化
酸化ストレス防御系酵素のスーパーオキシドジスムターゼ(SOD)には三種の補欠金属(Mn,Fe,CuZn)をもつイソ酵素が存在します。高等植物では、Mn-SODはミトコンドリアに、Fe-SODは葉緑体に局在し、原核生物起源と考えられています。一方、CuZn-SODは多くの原核生物や真核藻類には存在しないが、すべての陸上植物には存在します。緑色植物のCuZn-SODがいつ頃、なぜ出現したのかはSODの進化における謎のひとつです。高等植物では、CuZn-SODは葉緑体と細胞質に存在し、それらはいくつかの点で異なる構造的特徴をもっています。我々は、フタバネゼニゴケ細胞のCuZn-SODは細胞質にのみ存在するが、そのアミノ酸配列は高等植物の葉緑体型酵素と類似することを見い出しました。現在、CuZn-SODの分子進化の謎を解くため、さまざまなコケ植物からCuZn-SOD遺伝子を分離し、その構造解析と発現調節機構を研究しています。

3.DNAメチル化の機能解析
DNAメチル化は、原核生物では自己DNAの防御として働いていますが、高等真核生物では遺伝子発現調節や染色体構造維持など原核生物とは異なる機能が推定されています。DNAメチラーゼの進化については、原核生物のDNAメチラーゼに新たな構造が付加することにより、別の機能を持つように変化したのが真核生物の酵素ではないかと推定されています。高等植物の核DNAは、高度にメチル化し、それはゲノム上のさまざまな部位に存在することが知られていますが、下等植物ではDNAメチル化のレベルは低く、ほとんど機能していないと考えられていました。我々は、フタバネゼニゴケの核DNAは、高等植物と同程度にメチル化しているが、ゲノム上でのメチル化部位が高等植物とは異なることを見い出しました。現在、コケ植物におけるDNAメチル化の機能を知るため、DNAメチラーゼ遺伝子の構造解析と発現調節機構を研究しています。


自己紹介

平成9年4月付けで、当大学に着任しました。前任地の広島大学理学部では、コケ植物の培養細胞を用いて上記のテーマについて研究して来ました。平成10年度より3名の卒業研究生を迎え、これらの研究を再開しています。


研究室構成員のプロフィール

上田玲子(学部4年)
フタバネゼニゴケ細胞におけるchlL/N/Bの糖による発現調節機構

原口隆弘(学部4年)
ナガサキツノゴケ細胞におけるCuZn-SOD遺伝子の発現調節機構

福田剛司(学部4年)
フタバネゼニゴケ細胞のDNAメチラーゼ遺伝子の構造解析


参考文献

1. Tanaka, K., Takio, S., Yamamoto, I. and Satoh, T. (1996) Purification of the cytosolic CuZn-superoxide dismutase (CuZn-SOD) of Marchantia paleacea var. diptera and its resemblance to CuZn-SOD from chloroplasts. Plant Cell Physiol.,37:523-529.

2. Katoh, J., Yamahara, T., Tanaka, K., Takio, S. and Satoh, T. (1997) Characterization of catalase from green algae Chlamydomonas reinhardtii. J. Plant Physiol., 151,262-268.

3. Suzuki, T., Takio, S. and Satoh, T. (1998) Light-dependent expression in liverwort cells of chlL/N and chlB identified as chloroplast genes invol ved in chlorophyll synthesis in the dark. J. Plant Physiol. 152: 31-37.

4. Tanaka, K., Takio, S., Yamamoto, I. and Satoh, T. (1998) Characterization of a cDNA encoding CuZn-superoxide dismutase from the liverwort Marchantia paleacea var. diptera. Plant Cell Physiol. 39: 235-240.

5. Takio, S., Nakao, N., Suzuki, K., Yamamoto, I., Tanaka, K., Yamamoto, I. and Satoh, T. (1998) Light-dependent expression of protochlorophyllide oxidoreductase gene in the liverwort, Marchantia paleacea var. diptera. Plant Cell Physiol. (in press)