現在の研究について

・mRNAの核・細胞質間輸送の分子機構に関する研究

  真核生物の大きな特徴の一つに、核の存在があげられる。つまり、真核生細胞では遺伝子の保存と転写の場である核と、蛋白質への翻訳の場である細胞質が空間的にかつ明確に隔てられている。したがって、核に存在する遺伝子がその機能を発現するためには、遺伝情報を写し取ったmRNAを核から細胞質へと輸送することが必要不可欠となっている。
  現在、蛋白質の核・細胞質間輸送に関しては、その分子機構の解明が急速に進んでいるが、mRNAの核から細胞質への輸送機構に関しては、いまだに不明な部分が多い。我々は、mRNAの核外輸送機構を解明することを目的として、分裂酵母Schizosaccharomyces pombeのmRNA核外輸送温度感受性変異株を多数分離し、解析(原因遺伝子のクローニング、遺伝子構造と機能の解析、変異株の表現型解析など)を進めている。
  mRNA核外輸送の温度感受性変異株は、mRNAの3'末端に特徴的に存在するpoly A配列に結合するoligo dTをプローブに用いたin situ hybridizationによるスクリーニングで分離した。約1500株の生育に関する温度感受性変異株バンクをスクリーニングして、8株のmRNA核外輸送温度感受性変異株を分離した。それらの変異株はptr (poly A+ RNA transport)と命名し、現在までにptr1からptr8までの原因遺伝子をクローニングした。

in situ hybridizationによるmRNA分布の解析

inin

  また、我々は分裂酵母以外に動物細胞(HeLa cell)の核に、蛍光標識したヒトグロビンmRNAをマイクロインジェクションして、生きた細胞内でのmRNAの核から細胞質への輸送を解析する新しい実験系を開発した。確立したその実験系を用いて、遺伝子の転写活性とmRNA核外輸送機構との間に密接な関連性があることなど、新たな知見を見い出しており、現在更なる研究を進めている。(詳細はこちら)

動物細胞(HeLa cell)における蛍光mRNAの核外輸送解析


 

                  FITC-dextran       Cy3-mRNA


・mRNA前駆体のスプライシング反応機構に関する研究

  真核生物に見られるもう一つの大きな特徴は、ほとんどの遺伝子が遺伝情報としては意味をなさない領域(イントロンまたは介在配列と呼ばれる)によって分断されていることである。その点に於いて、真核生物の遺伝子構造は連続的な遺伝情報をもつ大腸菌などの原核生物の遺伝子構造と大きく異なっている。
  mRNA前駆体からのイントロンの除去と前後のエキソン(成熟mRNAにまで残される領域)の再結合反応はスプライシングと呼ばれる。我々は、スプライシング反応に関わる新たな因子の探索を目的として、分裂酵母S. pombeのスプライシング温度感受性変異株 (prp1〜14: pre-mRNA splicing) を分離して、それらの原因遺伝子の解析を進めている。 現在までに、prp1、prp3、prp8、prp10、prp11、prp12遺伝子をクローニングし、遺伝子がコードする蛋白質の実体を明らかにした。また、最近ではスプライシングとmRNA核外輸送のリンク機構に関しても研究を新たに開始している。

 


・分裂酵母とは

  単細胞真核生物である酵母は、パンやビールを製造する際に有用であるだけでなく、真核細胞の「究極」的なモデル生物として、分子生物学研究の発展にも多大な貢献をなしてきた。実験によく用いられる酵母には、出芽で増殖する出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeと、動物細胞と同様に2分裂で増殖する分裂酵母Schizosaccaromyces pombeの2種類がある。これらの酵母は、動物細胞に比べて世代時間が短く、また単細胞であることから変異株の分離や遺伝学的解析が行いやすいため、細胞周期制御から老化機構に至るまでの幅広い生命科学研究のモデル生物として活躍している。我々は、 S. cerevisiae同様、遺伝学的解析が行いやすく、かつ、高等真核生物との類似点の多い分裂酵母S. pombeを主な研究材料に用いて解析を行っている。

分裂酵母 (Schizosaccharomyces pombe)



■ 学会での発表(2001年12月以降)

演題 (発表者)  ””をクリックすると要旨をご覧になれます。
発表学会

UNEQUAL DISTRIBUTION OF THE NUCLEOLUS AFTER THE CELL DIVISION RESULTS IN NUCLEAR ACCUMULATION OF POLY(A)+ mRNA IN FISSION YEAST (Takashi IDEUE) 

Cold spring harbor meeting ''Dynamic organization of nuclear function''
(Cold spling harbor Sept., 2002)

mRNA核外輸送における酵母核小体の新たな役割 (井手上 賢) 

分裂酵母mRNA核外輸送変異ptr8とヒトコケイン症候群の関連  (水城 史貴) 

第4回日本RNA学会
(つくば 2002年7月)

mRNAの核外輸送阻害とコケイン症候群:新たな病態カテゴリーの提唱  (谷 時雄) 
科学技術振興事業団「さきがけ研究21」素過程と連携領域会議
(静岡 2002年6月)

pre-mRNAスプライシングとmRNA核外輸送をリンクするspRNPS1とその相互作用因子Prp3pの解析  (谷 時雄) 
第55回日本細胞生物学会
(横浜 2002年5月)

NUCLEAR EXPORT OF mRNA IN FISSION YEAST (Tokio TANI)  

ISOLATION AND CHARACTERIZATION OF NOVEL mRNA EXPORT MUTANTS IN S. POMBE (Takashi IDEUE) 

A PUTATIVE S. POMBE HOMOLOGUE FOR RNPS1 IS INVOLVED IN PRE-mRNA SPLICING AND mRNA EXPORT FROM THE NUCLEUS (Sin HWANG) 

Ptr7p, A NOVEL ATP/ADP BINDING PROTEIN, IS REQUIRED FOR BIDIRECTIONAL TRANSPORT OF MACROMOLECULES BETWEEN THE NUCLEUS AND CYTOPLASM (Junichi YOSHIDA) 

A MUTATION IN THE GENE ENCODING A HOMOLOGUE OF HUMAN XPB/ERCC3 CAUSES A DEFECT OF mRNA EXPORT FROM THE NUCLEUS (Fumitaka MIZUKI) 

The 2nd international fission yeast meeting
(Kyoto March, 2002)

mRNA核外輸送の分子機構 (谷 時雄) 
京都大学ウイルス研究所コロキウム 「生命機能とRNA」
(京都 2002年2月)

遺伝子の転写制御とmRNA核外輸送のクロストーク (谷 時雄) 

分裂酵母Schizosaccharomyces pombeにおける新規mRNA核外輸送変異株の単離と解析 (井手上 賢) 

XPB/ERCC3の分裂酵母相同因子Ptr8pはmRNAの核外輸送に関与する (水城 史貴) 

第24回日本分子生物学会
(横浜 2001年12月)


日本 RNA 学会ホームページ


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