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京都大学ウイルス研究所コロキウム「生命機能とRNA」 (2002年2月、京都市 京都大学)
 

mRNA核外輸送の分子機構
 

谷時雄
(熊本大、理、生物科学)
 
 真核生物においては、遺伝子の保存と転写の場である核とタンパク質への翻訳の場で ある細胞質が、脂質二重膜からなる核膜によって空間的に隔てられている。従って、 真核生物の遺伝子が発現するためには、遺伝情報を転写したmRNAを核から細胞質へと 運び出すことが必要不可欠である。mRNAの核から細胞質への移行は、単なる拡散によ って行われるのではなく、タンパク質の核内外への輸送と同様に、選択的かつ能動的 な輸送機構を介して行われていると考えられている。しかし、その詳細な分子機構に 関しては、未だに不明な部分も多い。
 我々はmRNAの核外輸送の制御機構および輸送に関わる因子の同定と解析を目的とし て、遺伝学的操作が行いやすく、かつ高等真核生物と類似点の多い分裂酵母 Schizosaccharomyces pombeを用いて、制限温度下でmRNA核外輸送が阻害される11種 類の温度感受性変異株 (ptr1〜ptr11:polyA+ RNA transport)を分離し、それらの原 因遺伝子の解析を行った。その結果、ptr6+遺伝子は基本転写因子複合体TFIIDの構成 因子ヒトTAFII55の相同因子を、ptr8+遺伝子は転写因子複合体TFIIHの構成因子ヒト XPB/ERCC3の相同因子をそれぞれコードしていることが判明した。ptr6-1では、遺伝 子の転写とmRNA核外輸送の双方が制限温度下で阻害された。一方、ptr8-1においては 制限温度にシフトすると、遺伝子の転写やスプライシングなど成熟mRNAへのプロセシ ング反応は正常に行われた。しかし、生成された成熟mRNA核外輸送は迅速に阻害さ れ、タンパク質合成の急速な低下が観察された。これらの変異株においてはNLSや NESをもつタンパク質の核内外への輸送に異常は見られなかった。また、動物細胞核 へ蛍光標識したヒトグロビンmRNAをマイクロインジェクションし、mRNAの細胞質への 輸送過程を生きた細胞内において可視化して解析する実験系を新たに構築した。その 解析系においてサイクロヘキシイミドなどにより蛋白質への翻訳を阻害しても核外輸 送に異常は生じないが、アクチノマイシンD等の転写阻害剤で細胞を処理すると、マ イクロインジェクションしたmRNAの核外輸送が阻害されることが示された。興味深い ことに、転写阻害剤処理で核外輸送を阻害した場合、輸送されなかった蛍光mRNAの一 部は核内においてSC35等のスプライシング因子が含まれるスペックル領域と隣接した 領域に蓄積した。これらの結果は、mRNAの核外輸送と遺伝子の転写装置との間に密接 な機能的連携機構が存在する可能性を示唆している。