現在までの状況



  核の存在は、真核生物における最も大きな特徴であり、遺伝子の転写の場 (核)と、タンパク質への翻訳の場 (細胞質)が核膜によって隔てられているため、mRNA及びタンパク質の核と細胞質間の移行は、真核生物の遺伝子発現において、きわめて重要な一段階となっている。
  我々はmRNA核外輸送の分子メカニズムを明らかにするために、in situ hybridizationを用いたスクリーニングにより、分裂酵母S. pombeの温度感受性変異株バンクから、制限温度下でmRNAの核への蓄積を示す9株のptr (polyA+ RNA transport)変異株を分離した。私はこれらのうちの1株ptr6について、その変異を相補する遺伝子のクローニングと解析を行った。ptr6+遺伝子は、成育に必須な393アミノ酸からなる分子量約61KDaの核タンパク質 (Ptr6p)をコードし、転写因子である出芽酵母のyTAFII67およびヒトのhTAFII55と有意な相同性を示すことがわかった。ptr6変異株はmRNA核外輸送異常の他に、調べた全てのmRNAの発現量に異常を持つこともわかった。なお、タンパク質の核内輸送、細胞周期には異常を示さなかった。また、免疫共沈実験より、Ptr6pは他の転写因子と相互作用することが生化学的に示された。
  さらに、mRNA核外輸送をより直接的に解析することを目的として、HeLa細胞の核に、蛍光標識したmRNAをmicroinjectionし、その挙動を観察することによって、mRNAの核から細胞質への輸送を解析するアッセイ系の構築に成功した。確立した新規アッセイ系を用いて、現在までに以下の知見を得た。
(1)Cap構造、及びpolyA tailはmRNAの核外輸送を促進する働きを持つことが示された。
(2)Actinomycin D (転写阻害剤)で処理すると、injectionしたmRNAの核外輸送に阻害が見られた。興味深いことに、核内に蓄積したmRNAは、スペックルと呼ばれるSC35などのsplicing因子が含まれる領域のすぐ隣に、強く蓄積することが判明した。
  現在までの分裂酵母mRNA核外輸送変異株ptr6の遺伝学的解析、並びに、Microinjectionを用いた解析より、mRNAの核外輸送と遺伝子の転写機構との間に密接な関連性がある可能性が強く示唆された。今後、さらなる解析により、遺伝子の転写活性と輸送の関連性を含めて、mRNA核外輸送機構の全貌を解き明かしたい。

 
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