分裂酵母温度感受性mRNA核外輸送変異株ptr6の解析:



(論文題名)
Characterization of the ptr6+ gene in fission yeast: A possible involvement of a transcriptional coactivator TAF in nucleocytoplasmic transport of mRNA
Genetics,1999/July,152, p869-880
分裂酵母のptr6+遺伝子の解析:転写因子TAFのmRNA核外輸送への関与


(要旨)
 真核生物の最も大きな特徴は、遺伝子を保存しmRNAへの転写を行う場である核と、機能因子であるタンパク質への翻訳の場である細胞質が、核膜により空間的に隔てられている点である。それゆえ、遺伝情報を写しとったmRNAの核から細胞質への輸送過程は、真核生物の遺伝子発現において、きわめて重要な一段階となっている。
 mRNA核外輸送機構の解明を目的として、酵母を用いた遺伝学的手法により、多数のmRNA核外輸送変異株が単離され、mRNA核外輸送に関与するさまざまな因子が同定された。しかし、現在もまだ、核外輸送機構の全容は明らかになっていない。我々は、mRNAの核外輸送機構解明のため、分裂酵母S. pombeを用い、mRNA核外輸送に異常を持つ7つの温度感受性変異株ptr (polyA+ RNA transport)を、oligo(dT)プローブを用いたin situ hybridizationを利用して単離した。今回、私はこのうちの一つであるptr6変異株の原因遺伝子ptr6+遺伝子のクローニングと解析を行った。
 分裂酵母ゲノムライブラリーを用いて、ptr6変異株の温度感受性及びmRNA核外輸送阻害を相補する遺伝子を単離し、その遺伝子がサプレッサーでなく目的とするptr6+遺伝子であることを確認した。ptr6+遺伝子は41塩基のイントロンを一つ持ち、成育に必須な393アミノ酸からなるタンパク質をコードしていた。ホモロジー解析の結果、Ptr6pは出芽酵母S. cerevisiaeのyTAF67及びヒトのhTAFII55と有意な相同性を示すことが判明した。TAF (TBP-associated factor)は転写装置TFIID complexのサブユニットの一つである。TFIIDはTBP (TATA-binding factor)と数種のTAFにより構成されている。現在、TBPの機能は詳細に解明されつつあるが、TAFの機能については、ほとんどわかっていない。ヒトのhTAFII55はdeletion実験により、大サブユニットであるhTAFII250及びその他の転写因子と相互作用する領域が決定されている。Ptr6p、hTAFII55及びyTAF67の間で、この領域は高度に保存されていた。なお、ptr6-1変異株はこの保存された領域内に変異を持つことがわかった。次にPtr6pの細胞内局在を解明するために、蛍光タンパクであるGFPとの融合タンパクを発現するプラスミドを作製してptr6-1に導入し、Ptr6p-GFPの細胞内の 分布を見た。その結果、Ptr6pは転写因子の存在場所として予想されたとおり、核に存在することがわかった。
 いくつかのmRNA核外輸送変異株においては、mRNA核外輸送阻害を示すだけでなく、タンパク質の核内輸送にも異常を示すことが知られている。そこで、私はXenopus Nucleoplasmin由来の核移行シグナル(NLS)とGFPとを融合させたマーカータンパク質の発現系を作成し、タンパク質の核移行に異常を持つかどうか解析した。その結果、タンパク質の核内輸送に異常を持つ可能性の高いptr2/pim1では、NLS-GFP融合タンパクの核移行が見られなかったが、ptr6変異株においては野生型細胞と同様に正常な核への移行が観察された。以上の結果から、ptr6変異株はタンパク質の核内輸送に異常を持たないことが判明した。
 Ptr6pが転写因子TAFと高い相同性を示したため、ptr6変異株が遺伝子の転写に異常を持つ可能性が考えられた。それを検証するためにNorthern blot解析を行った。TAFと特に関連性のあるTATA box結合タンパクTbp、Ptr6p、リボソームタンパクL7、アクチン1、yTAF72、スプライシング因子Prp2p、細胞周期に関与するCdc2p、さらにmRNA核外輸送に関与するRna1p、Rae1p、Pim1pをコードする遺伝子のmRNA量をそれぞれ調べた。その結果、tbp mRNAは非許容温度下で5〜6倍に増加しており、その他のmRNA量はすべて減少することが判明した。なお、tbpプローブを用いたNorthern blot解析から、ptr6変異株はスプライシングに異常を持たないことも判明した。
 以上の実験結果より、ptr6変異株はmRNA核外輸送に異常を持つだけでなく、遺伝子の転写にも異常を持つことがわかった。現在、転写因子TAFに変異を持つ温度感受性変異株は細胞周期に異常を持つことから、TAFと細胞周期制御との関連性が指摘されている。しかし、TAFの変異がmRNA核外輸送異常を引き起こすという例は現在まで報告されておらず、このptr6変異株の解析はmRNA核外輸送と転写制御機構(TAF)との関連性を結び付ける重要な糸口になるものと思われる。
 ptr6変異株におけるmRNAの核外輸送阻害のメカニズムとして、mRNAの核外輸送に必要なrna1+、rae1+、pim1+遺伝子の転写量減少による二次的影響が考えられる。しかし、同様にpim1+、prp2+、cdc2+遺伝子の転写量減少が見られたにもかかわらず、タンパク質の核内輸送、スプライシング及び細胞周期には全く異常が認められなかった。したがって、mRNA核外輸送の阻害が単純に転写量の減少によるものとは考えにくい。それゆえ、Ptr6pが直接的にmRNA核外輸送にも関与している可能性は強いと考えている。遺伝子の転写とmRNA核外輸送とは一連の互いに組み合わさった現象として行われており、転写の異常が同時にmRNA核外輸送の異常も引き起こしているのかもしれない。今後、ptr6変異株のさらなる解析により、S. pombeにおけるPtr6pつまりはTAFの機能、並びにmRNA核外輸送と転写機構との関連性を解明したい。

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