■基礎知識

  細胞の機能のほとんどは蛋白質が担っている。栄養分を細胞の外から取り込む機構も、その栄養分をエネルギーに変える工場も、また細胞が動く際のモーターも、すべて蛋白質によって機能している。遺伝子は、それら全ての蛋白質の設計図である。DNAは遺伝子を形作る材質であり、A, T, G, Cの4種類が直線状にならんだ構造をしている。この4文字の並び方が、どのような蛋白質を作るかを決める暗号の役割をしている。

  遺伝子の情報を元に蛋白質は作られる(これを遺伝子の発現と呼ぶ)が、DNAの遺伝情報から直接蛋白質を作ることはできない。遺伝子が発現する際には、DNAからmRNAメッセンジャーRNAという物質に遺伝情報がコピーされ(これを転写と呼ぶ)、そしてmRNAを元に蛋白質を作る(これを翻訳と呼ぶ)というステップを踏む。

            転写   翻訳
遺伝子の発現: DNA(遺伝子)→ mRNA → 蛋白質  

  大腸菌などに代表される原始的な生物の細胞では、遺伝子は細胞質(細胞の内容物)にただ浮かんでいるだけである。このような細胞を原核細胞という。これに対し高等生物の細胞では、遺伝子は核膜と呼ばれる膜に包まれている。この遺伝子を包む構造をといい、この様な細胞を真核細胞という。真核細胞の最大のメリットは、最重要物質である遺伝子を厳重に保護できる点だろう。核膜には核膜孔と呼ばれる穴がいくつも開いているが、この核膜孔はある程度以上の大きさの物質は素通りできず、核に入る/出ることを許可された物質だけが通過するような機構を持っている。そのため、遺伝子を細胞質で起こる運動や化学変化から隔離し、DNAの構造や、遺伝子の転写・複製などの反応系を守る事が出来る。

  ところが、ここで一つの問題が生じる。DNA→mRNAの転写は核内で行われるが、mRNA→蛋白質の翻訳を行う機構は細胞質=核の外に存在する。mRNAは細胞内では巨大分子で、核膜孔を素通りできない。つまり、mRNAを核の外へ輸送する機構が必要になってくる。

  また、mRNAはDNAから転写された時点では完成していない。RNAスプライシング(mRNAに転写された配列の中の、遺伝情報と関係のない部分を除去する反応)が起こり、、末端にキャップ構造ポリA配列と呼ばれる構造を付加して、初めて成熟mRNAとなる。これらのステップをmRNAのプロセシングと呼ぶ。核外へ輸送されるmRNAは成熟mRNAだけであり、プロセシングの終わっていないmRNAは核内に留められる(一部の例外もある)。

  mRNAの核外への輸送は複雑な機構によって制御されていると考えられる。この輸送の機構は未だに解明されていない部分も多い。我々はこの機構の全容を解明することを目的に、分裂酵母を主なモデル生物として研究を行っている。

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■研究テーマ

1.mRNAの核外輸送に関与するヒト蛋白質hPTR7の機能解析

 我々の研究室では、mRNAの輸送に異常がある分裂酵母の変異株を同定した。 .... 谷研究室、Research
そのうちのひとつであるptr7変異株の原因遺伝子(mRNA核外輸送の異常の原因となっていた、突然変異の起こった遺伝子)は、分裂酵母だけでなく植物から高等生物まで高度に保存されていた(=同じ様な機能を持つと思われる、似た塩基配列の遺伝子が、異なる生物種にも存在していたという事)。私はそれらのうちヒトで見つかった遺伝子について、機能の解析を行っている。

2.mRNAの選択的核外輸送の分子機構の解明(準備中)