発足にあたり

「キラル分子生命科学」の発足にあたり

 キラリティ(Chirality)とは、右手と左手のように、3次元の物体がその自身の鏡像と重ね合わせることができない性質(対掌性)のことをいいます。これは、単一小分子の立体化学のみならず、タンパク質や核酸、多糖類などの生体高分子の構造や機能をも制御する重要な概念です。それゆえ、“生物もキラル”であり、“キラリティ”を“シグナル”として利用し、形態や行動を精密に制御していることが知られています。しかし、化学の分野では、キラリティ制御法の開拓やキラル分子の合成法の開発が進む一方で、その成果が生命科学の発展に十分活用されているとはいえません。その一方で、基礎生物学や農学の分野では、生命におけるキラリティの重要性は認識されているものの、キラリティを合目的的に制御し利用すること自体議論されてきませんでした。

 このような状況のなか、熊本大学理学部の生物と化学の研究者が中心となって、この度「キラル分子生命科学」研究コアを立ち上げました。本研究コアは、①キラル分子の創出、②細胞機能のキラル分子制御、③生命現象のキラル分子制御を研究の基軸として、これらの基礎研究および融合研究を通じて生命現象を司るキラリティの本質に迫り、化学と生物の境界領域に新たな学術領域を創成することを目指しています。この研究目的のもと、有機化学・有機合成化学・天然物化学・分子生物学・植物学・薬学・農学など、多彩な研究基盤を有する研究者が本研究コアに参画しています(メンバー参照)。このように、小分子レベルから天然物、遺伝子、生物個体レベルまで、化学と生物の領域を横断する「キラリティ制御」を共通課題とした研究体制を敷くことにより、化学と生物の融合研究を劇的に進化させ、これを生命科学の飛躍的かつ特異的な発展へと繋げます。その成果は、革新的なキラル分子技術(分子触媒、医薬品、農薬など)に結実し、画期的な創薬や農学的応用などに繋がるものと期待しています。

 なお、本研究コアは、平成25年度に発足した研究コア「キラル分子科学」を基盤として、化学と生物学の融合をより鮮明にして発展させたのです。「キラル分子科学」の活動については、過去のイベントをご参照下さい。

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