理学部1学科制に対する企業サイドからの見解
理学部は設立当初からの学問分野として存在する学科間の壁を取り払い、平成16年度より理学部1学科制を敷き、教育プログラム制度方式の大学教育を行うことを計画している。この制度は1、2年次に自然科学全般の幅広い知識を学ばせ、3、4年次では一つの分野の専門的知識、または二つの分野にまたがる学際的専門知識を習得させる教育方式である。企業がこのような教育を受けた学生を人材として採用するに当たり、理学科卒業生をどのように考えているのか、実際に幾つかの企業の人事担当者に直接インタビューしたので、以下に紹介する。
1.A社(化学、ファインセラミックス、電子機器、半導体関連企業) |
- 理学部卒業の学生と工学部卒業の学生の違いは企業側から見ると、あまりその違いがわからない。ただ、工学部卒業の学生は応用的、工学的バックグラウンドから企業では実践的であり、即戦力となり得る。また、学部定員が理学部より多いので、どうしてもそれに比例して理学部卒業生に比べて採用人数が多くなる。しかし、理学部の学生は基礎的考え方に長けており、柔軟に物事を考える能力が備わっており、研究開発に向く傾向がある。このような点からすると、理学部1学科制となった場合には、さらに自然科学の基盤的教育を受けてくるわけであり、益々研究開発型人材として期待される。
- 理学部1学科制となっても、企業としては一つの学問分野を成し遂げたという執念がうかがえる人物の方が好ましい。恐らく、3、4年次からの教育プログラム制がこれに対応するものだと思われる。さらに、1、2年次の基盤的教育により自然科学の基礎がしっかりしたgeneralist的、かつ、3、4年次の教育プログラム制で一つまたは学際的分野に特化された人材は、企業においては各方面で潰しが利き、大いに好まれる。
- 工学部出身者も理学部出身者も企業に入れば全く区別はなく、最終的には一つの企業プロジェクトをやり遂げる最終的な執念が備わっているかが重要である。その点、3、4年次の教育プログラム制はこれに合致した人材育成につながっているのではないか。
- 理学部1学科制になり理学科となっても、化学系や物理系などという学問分野は教育プログラムという形で残るので、採用にはさほど混乱は生じない。
- 求人はあくまでも企業内部の現場からの要望で行うので、自然科学のgeneralistという形での採用はない。必ず、化学系、物理系、電気系、電子系などの採用となる。しかし、会社に入ってからは化学系、物理系、電気系、電子系などという明確な枠はないので、自然科学全般を広く浅く教育された、例えば化学系generalistなどの方が、柔軟性があり良いかもしれない。
3.C社(材料、自動車、半導体、化学、バイオ関連アウトソーシング企業) |
- 企業における開発という点では理学部で各専門に特化した学生よりも自然科学のgeneralistの方が柔軟に対応でき、むしろ望ましい。
- 企業における特許の調査や取得について、専門性も必要だがgeneralistの方が多方面に対応でき、好ましい。
- 会社の管理運営を行う人材には必ずしも理学部における各専門に特化した人材でなくてもよい。この点は文化系の学生でもよい。
- 営業など、対外的仕事に対しては大学で学んだ専門の知識も必要となるので、自然科学を広く浅く知っているgeneralistの方が対外的には受けが良い。
4.D社(印刷、フィルム、液晶、半導体、プリント基板関連企業) |
- 理学部1学科制となっても、理学的generalistの中にも光る物(専門性)を持っている学生の方が望ましい。
- 1、2年次に学んだ自然科学の広い基盤の上に3、4年次でスペシャリスト的に学問を積み上げた人の方が、企業ではより広く新しいことへの挑戦ができる傾向にある。
- こういう仕事をしたいという希望を持って入社することは大歓迎する。従って、学問学科を問わない。理学部1学科制となっても、理学部からの人材を積極的に受け入れる。しかし、理科系と文化系の仕事の違いは歴然とあるので、それくらいの区別はする。すなわち、理系、文系という適性に合った仕事をしていただくということである。
- あくまで、仕事に対する行動力があり、人とのコミュニケーションが取れる人材であることが重要である。従って、学部や学科にはこだわらない。
- SE, MEなどの仕事は、客先のニーズをいかに把握して、社内の技術でいかにスマートに解決できるか考える仕事である。従って、問題把握の能力と好奇心が重要で、大学教育の段階で得た具体的なスキルは必ずしも重要ではない。
以上のように、企業によっては専門的業種があり、それなりの専門的知識を身に付けた学生の採用を好むところもある。しかし、近年では企業も生き残りをかけ、一つの企業で多方面の業界、業種の仕事をしているところが多く、旧来の大学教育のように一つの専門的教育だけを受けた学生ではもはや企業に入社後対応しきれなくなっているようである。理学部がこれから行おうとしている1学科制はまさにこのような企業側からの要望に応える人材育成の最良の学科と言えるのではないか。企業側が望むのは、広く自然科学の基盤をしっかりと身に付けた発想力、創造性の豊かな人材であり、これからの理学部理学科はそうしたニーズに応えなければならない。
自然科学の基礎的、基本的知識を素養としてもった人材は今後、社会のあらゆる分野、職種において益々求められるであろう。理学部理学科では、低学年では理学全体の幅広い知識を学び、高学年では種々の専門知識を習得することができる教育プログラム制により、社会的に要請された人材を育成できる。また、理学部での基礎理学教育の強化は大学院博士前期課程へ進学するの学生の、修了後の進路の幅を広げる効果もある。
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Created: August 8, 2003.