理学部1学科制に対する高校側の反応

熊本県内の20の高校(進学校 県立16、私立4)に改組資料を送付し、アンケートを回収した。また、これらの高校を直接、訪問して、進路指導主事の先生、数学、理科の担当教諭と面談して、意見を聴取した。さらに、熊本県外の進学校に改組資料を送付して、アンケートを郵送で回収した。
アンケート回答に先立って、改組資料と、その要約をQ&A形式でまとめた文章に目を通してもらった。以下に、Q&Aとアンケート質問事項を添付し、その後で、回収したアンケート結果を整理して記載した。

訪問説明に協力していただいた高校:
県立高校 熊本高校、済々黌高校、第一高校、第二高校、熊本北高校、東稜高校、玉名高校、鹿本高校、八代高校、人吉高校、大津高校、菊池高校、宇土高校、荒尾高校、水俣高校、天草高校
私立高校 真和高校、熊本学園大学附属高校、九州学院高校、文徳高校


理学部改組についてのアンケート
Q1:今、なぜ理学科なのか。
A2:従来、理学部は、数学、物理学、化学、生物学、地学の古典的な学問分野に分けて教育研究を行う体制をとってきた。この分類は、いまでもなお基本的なものである。一方、学問の深化や社会のニーズは、これらの固有の学問分野の境界を曖昧なものにしつつある。物理学は、ビッグバン理論に見られるように、観測不可能な領域にも考察を進め、高度な数学を必要とする。生物学においても、分子的なレベルで物理学や化学の知識を必要としている。このように、単一の学問分野のみに関心を限定したのでは、将来性は望めない。当理学部は平成9年に環境理学科を新設したが、それは時代の要請を受けたからである。しかし、これからは、新たな領域に対応するのに、新学科を設置する形で対処できる状況ではなくなった。時代の要請に柔軟に対応し、21世紀の理学教育を遂行する上で、既存学科の存続は妨害要素となっている。このような認識に基づいて、理学部を理学科として再編成する。
Q2:理学科は熊本大学の理学部だけか。
A2:京都大学の理学部は理学科のみの単一学科である。
Q3:京都大学理学部では、カリキュラムはどうなっているか。
A3:3年生から5つの系(数理科学系、物理科学系、地球惑星科学系、化学系、生物科学系)のどれかに所属する方式である。熊本大学理学部の4つの教育プログラムに相当すると思って頂いて結構である。
Q4:教育プログラム制とはなにか。
A4:明確な教育目標を設定し、その目標を達成するために、授業内容や方法が十分に吟味された授業科目が統一的かつ体系的に配置された、学習者を中心にした柔軟な教育システムのことである。要するに、従来の学科制では、その学科で決められた科目だけしか履修できなかったが、プログラム制では、学生が自ら自己に最も適当と思われる専門分野を見出し、それに関連する科目を重点的に学習できる。換言すれば、学科制は、教える側に都合のよい制度であるのに対して、プログラム制は、学習者に都合のよい制度である。喩えて言えば、既製服(学科制)とオーダーメード(プログラム制)の違いである。
Q5:教育プログラム制を実施している大学・学部は他にあるか。
A5:京都大学理学部理学科の5つの系は、名前は違うが、実質的には、教育プログラムと同じである。広島大学では、平成16年度から、全学規模で教育プログラム制を採用することに決まった。今後、このプログラム制が全国の大学に波及すると思われる。
Q6:学生は、3年次から4つの教育プログラム(数理科学、物理・化学、地球環境、生物環境)のどれかに所属するが、志望が偏って、希望するプログラムに所属できないことはないか。
A6:原則として、各プログラムには定員を設けず、学生の志望を優先するから、偏る可能性は十分にあり得る。教育施設・設備の制約などやむを得ない理由がある場合には、学生受け入れの上限人数を設定することがある。しかし、実験・実習など複数回、実施することによって、人数制限をできるだけ回避する方針である。
[追記] 今回のアンケート調査の結果、3年次で希望するプログラムに進めないのではないかという高校側の危惧が多かったので、実験・実習に関するシミュレーションを行ったところ、希望学生を全員、受け入れることが可能であることが判明したので、各プログラムには定員を設けず、学部を挙げて対応することにした。
Q7:3年次から4年次に進級するときに、別の教育プログラムに移ることは可能か。
A7:教育委員会で審査して、然るべき理由があるときは、移行を認める。また、学生によっては、自主編成プログラムを教育委員会の承認のもとに認める。
Q8:従来の「○○学科卒業」ではなくて、「理学科卒業」となるのか。また、社会的認知の点で、卒業生が不利になることはないか。
A8:卒業生の諸証明書は、「理学科○○教育プログラム修了」として発行する。社会や時代のニーズは、現在、理学部○○学科卒業生というよりも、理学科○○教育プログラム修了生の方に有利に働き、就職の点で卒業生が不利になることはない。
Q9:従来の学科制に比べて、教育プログラム制のもとでは、卒業生の専門性が低下するのではないか。
A9:中央教育審議会答申(平成14年2月21日)にもあるように、学部教育は教養教育と専門基礎教育を中心に行うのが基本となり、社会は、必ずしも学部卒業生に高度な専門性を求めてはいない。自然科学全般に対する幅広い知識と、柔軟な科学的思考法を身に付け、自ら判断し、自ら対応できる人材が求められている。1および2年次で習得した理学の基礎を踏まえて、3および4年次にわたって、設定した教育目標に従って、専門性を次第に深化させることによって、従来の学科制での卒業生と同レベルの専門性を獲得することは十分に可能である。プログラムと履修科目を選択する際に、個々の学生の自由意志が反映されるので、従来の学科制に比べて、勉学意欲の増大が期待できる。
Q10:理学部の従来の学科のカリキュラムと比べて、どのような特徴があるのか。
A10:従来の理学部の学科制は、全国どこの大学でも、同一の、似かよった専門カリキュラムを当該学科の学生に強制し、いわば自分の後継者を養成する感があった。平成3年度に理学部に入学した学生は17,500名であり、この中で、4年後の平成7年3月に卒業できた学生は14,100名である。19% の学生は留年または退学したことになる。卒業者(留年後卒業者も含む)の中で進学した者は34% で就職した者は51% であり、最終的に博士課程まで進学した学生は5% である。研究後継者以外の道に進んだ学生が95% も存在する。教育プログラムは、このような95% の学生に対する教育責任を果たすことを主たる目的として導入されたものであり、一人一人の学生の個性に合わせて、その能力が最大限に発揮できるように、明確な教育目標のもとに十分に吟味された授業科目群を設定し、個々の学生にきめ細かな履修指導を行うことが基本になっている。
Q11:大学院への進学率は、改組後、増えると思うか、減ると思うか。
A11:教育プログラム制では、進級するにつれて専門性が次第に深化するから、自己の専門分野をさらに深めたいと希望する学生の割合は、現状よりもかなり増えるものと思われる。

上記 "Q&A" を参考にしていただき、以下の質問項目にお答えくださいますようお願い申し上げます。
1.高校生にとって、理学部1学科体制になった場合の当理学部に魅力を感じるでしょうか。また、それに関連して、当理学部を受験する学生は増えるでしょうか、減るでしょうか。
2.従来は、入学時に専攻学科を決めていましたが、3年次から教育プログラムを選択して、自己の専攻領域を決めることについて、どのようにお考えでしょうか。
3.教育プログラム制について、どのような感想をお持ちでしょうか。
4.今般の理学部改組について、率直なご意見を承りたいと思います。ご自由にお書きください。

アンケート結果
1.高校生にとって、理学部1学科体制になった場合の当理学部に魅力を感じるでしょうか。また、それに関連して、当理学部を受験する学生は増えるでしょうか、減るでしょうか。
2.従来は、入学時に専攻学科を決めていましたが、3年次から教育プログラムを選択して、自己の専攻領域を決めることについて、どのようにお考えでしょうか。
3.教育プログラム制について、どのような感想をお持ちでしょうか。
4.今般の理学部改組について、率直なご意見を承りたいと思います。ご自由にお書きください。

ご質問,ご意見がありましたら,下記まで連絡下さい。


arai@sci.kumamoto-u.ac.jp

〒860-8555
熊本市黒髪2-39-1
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TEL 096-342-3313, 3314


Created: August 7, 2003.