[曲面上の孤立臍点の周りでの主分布の振る舞い]

曲面上の孤立臍点の周りでの主分布 (各点で主方向の一つを与える 1 次元分布) の振る舞いは非常に複雑な場合があり, また全ての振る舞いが把握されるには至っていない. 曲面上の孤立臍点の指数とは, その点の周りでの主分布の振る舞いに関する半整数である. 孤立臍点の指数は 1 以下であると予想されていて (指数予想), 関連してCaratheodoryの予想 (閉凸曲面は必ず二つ以上臍点を有する)やLoewnerの予想 (指数予想の一般化)が知られている.

私は孤立臍点の周りでの主分布の振る舞いを詳しく調べ, 2 変数同次多項式のグラフや実解析的な曲面などにおいて議論を行なった. 平均曲率一定曲面や特別なWeingarten曲面の孤立臍点の指数が負であることは以前から知られていて, またWillmore曲面の孤立臍点の指数が 1/2 以下であることを示したが, これらの結果を説明しさらに (全てではないが)非常に多くの曲面上の孤立臍点の周りでの主分布の振る舞いを描写する枠組みを構築した. この中で扱うことができる孤立臍点の指数は 1 以下であり, この枠組みにおいて現在までに把握している孤立臍点の周りでの主分布の振る舞いは 2 変数同次多項式のグラフ上のものと同類であるかまたは似ている. 孤立臍点の周りでの主分布の振る舞いは, ある特別な方向においてより複雑な場合がある (このような方向が無い場合には指数予想は正しいが, 一方でそのような特別な方向を持つ孤立臍点の例をある種の 2 変数同次多項式のグラフ上で見出すことができる). 一般の実解析的な曲面の孤立臍点の指数が 1 以下になるための十分条件を与えた (よってその条件を一般の実解析的な曲面が満たすことを証明できれば, 孤立臍点の指数が 1 以下であることがわかり, 従って実解析的な曲面に対し指数予想を肯定的に解決できることになる)が, この条件は上述の特別な方向における主分布の振る舞いの複雑さを抑制するものであり, その抑制が一般に成り立つならば指数予想は正しいことになる.

実解析的ではないが滑らかな曲面については, 上述の枠組みと殆ど同じものによって実解析的な場合と同様に議論できる場合とそうではない場合がある. 後者の場合の例を作り, その孤立臍点の周りでの主分布の振る舞いを調べ, 特にその例において孤立臍点の指数は 1 であることを示した.

またLoewnerの予想とは異なるがしかし指数予想を含む予想を見い出し, 上で述べた曲面上の孤立臍点の周りでの主分布の振る舞いについての議論の類似物を構築することによってその予想の部分解答を与えた.

曲面のGauss写像の値域は 2 次元単位球面であるが, 値域を一般の凸曲面に置き換えてGauss写像の類似物を考えることができる. これを非等方的Gauss写像といい, 非等方的Gauss写像の値域である凸曲面をWulff図形という. 非等方的Gauss写像を用いて非等方的型作用素, 非等方的臍点および非等方的平均曲率を定義できるが, これはGauss写像を用いて型作用素, 臍点および平均曲率を定義できることと同様である. また平均曲率が面積汎関数の第 1 変分に現れることは良く知られているが, 面積汎関数の一般化としてその第 1 変分に非等方的平均曲率が現れるものが考案されている. 球面に同相な平均曲率一定曲面は全臍的球面に限ることは良く知られているが, これは全臍的ではない平均曲率一定曲面の臍点が孤立していてかつその指数は負であることとHopf-Poincareの定理を用いて示される (Hartman-Wintnerは, 平均曲率一定曲面の一般化である特別なWeingarten曲面に対しても同様の結果を得た). この論法を用いて, そして面積汎関数の一般化を与える設定に立脚して, Koiso-Palmerは球面に同相な非等方的平均曲率一定曲面はWulff図形と相似であることを示した. 私は, Koiso-Palmerとは別の設定に立脚して, この結果の別証明を与えた. 私が採用した設定は, 曲面およびWulff図形を局所的に 2 変数関数のグラフとして表し, そしてこれらの関数を用いて非等方的型作用素を表すという, 臍点の周りでの主分布の振る舞いを調べる際に私が以前から採用しているものである.

通常, 曲面は滑らかなはめこみ (による像)であるとしている. 一方で, C^1 級の臍点とは, まず C^1 級のはめこみが与えられていてそしてその点のある近傍からその点自身を除いたところでは滑らかであるときにいう. C^1 級の臍点は任意の半整数を取り得ることがわかった (藤山俊文氏および梅原雅顕氏との共同研究).