[曲面の第一基本形式と主分布の関係, 曲面上の過剰決定系]

Gaussの方程式とCodazzi-Mainardiの方程式は曲面の第一基本形式, 主分布および主曲率の間の関係を与え, またこれらの間の関係は曲面の空間における在り方, 形状を決定する. これらのうち主曲率は第一基本形式と主分布からなる準曲面構造から殆ど決まってしまう: 臍点を持たずどの点でも零ではないGauss曲率を持つ曲面に対し, 二つの主曲率の組は第一Codazzi-Mainardi多項式の零点であり, Codazzi-Mainardi多項式は曲面の準曲面構造によって各点で定まる. よって第一基本形式と主分布の間の関係が曲面の空間における形状を殆ど決定すると考えることができる.

第一基本形式と二つの主分布の間の関係について議論するために, 曲率線 (主分布の積分曲線)の測地的曲率に注目して研究を行なった. 以前に見い出した第一Codazzi-Mainardi多項式や標準的前発散は曲面の準曲面構造から定まるが, これらは曲率線の測地的曲率を用いて表されることがわかった. またGaussの方程式とCodazzi-Mainardiの方程式の各々は二つの主曲率と標準的前発散の間の関係として表される.

3 次元空間型内の臍点を持たない平均曲率一定曲面を曲率線の測地的曲率や標準的前発散の観点で特徴づけることができ, また主分布を局所的に表す等温座標や非圧縮かつ渦なしであるベクトル場の観点でも特徴づけることができる. またLawsonによって調べられた「一般化されたRicci条件」を満たす計量を持つ 2 次元Riemann多様体が平均曲率一定曲面となるように主分布を与える方法を示し, 特に多様体の 1 点での接平面の互いに直交する二つの 1 次元部分空間が主分布を決定することを示した. 極小曲面の場合にはこれらの情報によって曲面の空間における形状が決定される.

3 次元空間型内の臍点を持たない定曲率曲面を曲率線の測地的曲率の観点で特徴づけることができる. また空間の断面曲率と異なる一定曲率を持つ曲面でCodazzi-Mainardi多項式が零ではないものに対し, 二つの主曲率の対は符号を除いて第一基本形式と主分布によって一意に定まる. またCodazzi-Mainardi多項式が恒等的に零であるような定曲率曲面が存在する.

E^3 内の曲面でその主分布の一つの積分曲線が全て測地線であるようなものを, 準曲面構造の観点でまた空間曲線としての曲率線の情報である曲率および捩率の観点で特徴づけた. このような曲面の一種として主方向平行曲面を挙げることができるが, 臍点を持たずGauss曲率が零ではないこのような曲面が主方向平行であることと, Codazzi-Mainardi多項式が恒等的に零であることは同値である.

主分布を H 分布 (法曲率が平均曲率に等しい方向を与える1次元分布)に置き換えて得られる準曲面構造についての議論の中で標準的前発散は見い出されたが, その際Codazzi-Mainardiの方程式を表現するために用いられることがわかった. さらにこの準曲面構造に関連して第二Codazzi-Mainardi多項式が見い出された. 第一Codazzi-Mainardi多項式と第二Codazzi-Mainardi多項式の関係を明示できる.

E^3 内の曲面で臍点を持たずGauss曲率が零ではないものがmoldingであるとは, 合同ではないが主分布を保つ等長写像で移り合う曲面の (実数によりパラメーター付けされた)族に含まれるときにいう. 曲面がmoldingであることとそのCodazzi-Mainardi多項式が恒等的に零であることは同値である. moldingである曲面の曲率線の族の一つは測地線からなることが既に知られている (Cartan, Bryant-Chern-Griffiths). 私は F_u =α+βe^F, F_v =γ+δe^{-F} という型の過剰決定系を考察することにより, この定理の別証明を与えた. この別証明の中にLiouvilleの方程式が現れる. 上述の定理と私が以前得た結果から, 主方向平行曲面はmoldingである曲面とほとんど同種のものであることがわかった.

Moldingである曲面上の過剰決定系は整合条件 (compatibility condition) を満たす (Codazzi-Mainardi多項式が恒等的に零であることの別表現). 上述の型の過剰決定系で整合条件を満たすものの一般解を具体的に記述した. 特にβδ≠0の場合に, Liouvilleの方程式の一般解を用いて過剰決定系の一般解を記述した.

上述の型の過剰決定系が解を持つための必要十分条件を求めた. 過剰決定系が整合条件を満たす場合にこの必要十分条件をより具体的に記述し, これを用いてLiouvilleの方程式の一般解を求める新しい方法を得た (B\"acklund変換を用いて求める方法が既に知られている). また系が整合条件を満たさない場合に解が存在するならば解の個数は高々 2 であるが, ちょうど二つの解が存在するための必要十分条件を求めた. またβ=0 の場合に系が解を持つならば解は一意であるが, 解が存在するための条件を求めた.

曲率が実数 L_0 とは常に異なる 2 次元Riemann多様体 M 上に, 各点で互いに直交する二つの 1 次元分布 D_1, D_2 が与えられているとする. このとき, M の各点の近傍から断面曲率が L_0 である 3 次元空間型への等長なはめこみで D_1, D_2 が主分布を与えるようなものが存在するための必要十分条件を得た. 以下 L_0 =0 とし, M が上のようにはめこまれているとする. もし対応する過剰決定系が整合条件を満たすならば, E^3 内に現れる曲面はちょうどmolding surfaceである. 整合条件を満たさない場合, はめこみは一意であるかまたは像が互いに合同ではないちょうど二つのはめこみが局所的に存在するかのいずれかが起きるが, 後者が成り立つための必要十分条件を得た. この条件の中にsinh-Gordon方程式が現れ, この条件が成り立つ場合に曲面がisothermicであることと零ではない一定平均曲率を持つことは同値である. なお, 整合条件を満たさない過剰決定系のうち, 3 次元空間型内の極小曲面, 3 次元空間型内の定曲率曲面で主曲率が零ではないもの, E^3 内の曲面でGauss曲率が零ではなくかつ曲率線の族の一つが測地線からなるものの上の過剰決定系の解は一意である.

E^3 内のGauss曲率が零ではなくかつ臍点を持たない曲面のそれぞれに対し, 現れる過剰決定系を共有する E^3 内で合同ではない曲面はたくさん存在する. 従って過剰決定系と曲面の族が対応し, さらに二つの 1 次元分布と標準的前発散に対応し得る 1 形式が与えられた 2 次元多様体と曲面の族が対応する. 私は極小曲面を含む曲面の族をこの対応の観点で特徴づけた.

前段落における 2 次元多様体上の二つの 1 次元分布および 1 形式が定める過剰決定系の一般化として, 1 形式の外微分を一般の 2 形式に置き換えて得られるものを見い出しそして調べた. その結果, E^3 内の曲面上の過剰決定系に関する結果に相当するものを得ることができた. さらに, この結果を踏まえて, 平坦ではない 3 次元空間型内の曲面上の過剰決定系についても E^3 内での結果に相当するものを得た.

また曲面上の過剰決定系の一般化として, 次元が 2 以上の多様体上の「多項式型の過剰決定系」を見い出しそして (特に整合条件について)調べた.