木村 弘信

熊本大学理学部理学科
基礎数理科学講座
教授
教育研究分野:大域解析学
Email: hiro@sci.kumamoto-u.ac.jp  

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専門分野:可積分系,特殊関数論
研究テーマ(1):点の配置空間の幾何と一般超幾何関数

多変数の特殊関数の理論をつくることがテーマです.ガウスの超幾何関数やベッ セル関数などの一変数特殊関数は線型偏微分方程式の変数分離で得られる常微分 方程式の解であるということは良く知られています.これらが特殊関数と特に名 前がつけられているのは,関数の大域的な振る舞いが良く分かり,また方程式の隠れている対称性 の故にさまざまな変換公式があるおかげで,あたかも sin x や cos x などの三角 関数のように使えるからです.表題の研究テーマは1990年頃,それ以前に非線型 の方程式の研究で多変数の超幾何関数に出会っていたことと K.Aomoto と I.M.Gelfandのガウスの超幾何関数の一般化に関する仕事に興味を持ったことが きっかけで始めたものです.私が与えたものは一口で言ってしまうと「GL(N) の正則元の中心化群の"指標" をラドン変換して得られる関数が一般超幾何関数」 というものです. 正則元は N の自然数の和への分け方(分割)で指定されていて,これを与えるごとに異なったタイプの特殊関数が定義されます.例えば N=4 の場合に分割は (1,1,1,1), (2,1,1), (2,2), (3,1), (4) ですが,それぞれガウスの超幾何関数,クンマー の合流超幾何関数,ベッセル関数,エルミート関数,エアリー関数という良く知 られた特殊関数が得られます.分割を与えればこれらの特殊関数のすべてが復元 可能で,その意味で非常にすっきりしたのですが, N>4 の場合はすべて多変数関数の世 界の話で,代数解析,位相幾何学,Lie群の表現論,組合わせ論,(複素)代数 幾何,特異点論の問題が関連してきて未だ良く分からないことがたくさんあります.

研究テーマ(2):Twistor理論と一般Schlesinger系

ここ30年ほど,数学や数理物理の分野で,パンルベ方程式と呼ばれる6個の2階の非線 型常微分方程式が多くの研究者の注目を集めてきています.元々は,1世紀以上も遡 る1900年に,ポール・パンルベというフランスの数学者によって純粋に数学的な問題意識から発見された微 分方程式ですが,それが年月を経て思いがけない数理物理の問題に姿を表したこと がきっかけでした.現在では,ランダム行列の理論をはじめとするいろいろな分 野で重要な役割を果たす対象であるという認識が広がっています. このパンルベ方程式は,線型常微分方程式の族で,その大域的な 性質を表す量であるモノドロミーが同じであるものを記述する役割を果たしてお り,その観点から偏微分方程式に拡張されています.それらを一般シュレジンガ─系 と呼びます. 私の現在の興味は,ペンローズ学派によって建設されてきたツイスター理 論を用いて,上記の非線型微分方程式を(一般化された意味の)ヤン・ミルズ方 程式の特殊解として捉え,これを研究テーマ(1)に述べた一般超幾何関数の理論と統一的に理解することです. このテーマは,私個人にとっては,まだ端緒についたばかりという状態で,まだ まだ理解すべきことが沢山あります.


研究の成果

一般超幾何関数を de Rham理論で扱う枠組みを整備してきています.がそれらも 未だ満足できるような状況にはありません.また,超幾何関数を特徴づけるホロ ノミック系と呼ばれる微分方程式の解の大域的な性質(モノロドミー等)を調べる ことは重要な問題ですが,ホロノミック系が定義されている空間(一般化された 点の配置空間)の基本群ですら実は簡単な場合にしか計算されていません.というわ けで,これらの関数が1変数特殊関数のように良く分かった存在となるまでには, 可積分系との関係も含めて,まだやるべきことがたくさんあるという状況です.

論文リスト


メッセージ

大学4年生のときゼミで多変数関数論を勉強していましたが,指導教官から多変数の" 良い特殊関数"を見い出すことは重要な課題であるという話を聞き,そ れ以来,この方面の研究をしています. 研究対象は具体的なものなので,いろいろ手で計算しながら研究できるというの は,私の性にあっています.具体的なものを研究するときには,腕力とそ れがどのように見えるか(理解できるか)ということが重要になり, 見方を変えると今まで見えなかったものが見えてくることがあって,うまく理解で きたと思ったときは非常にうれしいものです.もちろん数学的な見方ですか ら,そちらの方面の知識や経験がないと「見れども見えず」ということになってし まいますので,その意味ではいろいろなことを勉強する必要があります. 学生諸君が数学の勉強をするときには,今勉強していることがどのように役に立つかはっきりしていることもあれば,何でこんなことを勉強しているのか分からないと いうこともあると思います.とくに3年次までの科目を勉強していてこのような 感想を持つことが多いのではないでしょうか.しかし,実際に問題を考え始め たときに,それらを学んでいたことの重要性が分かるのではないかと思います. まあ,自分のペースで自分の分かり方でゆっくり勉強してください.