新しい機構に基づいた有機薄膜素子の特性制御の試み

 

  スピンクロス オーバー現象はその劇的な磁気特性の変化とそれに伴う錯体の色の変化から、主に磁気記録素子への適用の可能性に注目した研究が行われています[1,2]。 私はスピンクロスオーバー現象を有機薄膜素子の機能特性変調に利用することを考え、スピンクロスオーバー錯体の薄膜化を目指してきました。


 スピンクロスオーバー錯体の薄膜化の試みは多くありますが、簡便な方法で作製されたものはほとんどありません。一方、私は最近、260 K付近でスピン転移を示すスピンクロスオーバー錯体[Fe(dpp)2](BF4)2の薄膜化を、非常にシンプルな製膜方法であるスピンコート法により達 成しています[3]。得られた薄膜はスピン転移に伴い吸収ス ペクトルと電気抵抗が変化しており、この結果はスピン転移に伴う電気的特性の変化を電子デバイスに利用できる可能性を示していると考え、有機EL素子の発 光層に[Fe(dpp)2](BF4)2を組み込んだ素子を作成することを試みました。


 作製した素子は、ITO/chl a:[Fe(dpp)2](BF4)2/Alの構造で、300 Kでは3Vの印加電圧でクロロフィルaに由来したスペクトルが明確に確認できますが、この素子を200 Kまで冷やすとクロロフィルa由来の発光は観測できなくなりました。続けて素子を300 Kまで昇温すると、再びクロロフィルa由来のELスペクトルが観測され、このEL発光のON/OFFが温度の上昇・下降に伴い繰り返し再現できることを見 つけました。[Fe(dpp)2](BF4)2を含まないクロロフィルaのみの素子(ITO/chl a/Al構造の素子)では、200 Kでも3Vで300 Kと同様なクロロフィルa由来のELスペクトルを明確に観測できること、発光強度の温度依存性から発光の消失が250K付近で起こっていることから、ITO/chl a:[Fe(dpp)2](BF4)2/Al構造の素子において観測されるクロロフィルa由来のEL発光の消失は、[Fe(dpp)2](BF4)2のスピン転移に由来する と考えられます[4]。


 この現象は新たな機構に基づく素子特性制御の可能性を示していると考えており、発現機構の解明とさらなる新規現象の発現を目指した研究を行っています。

 参考文献

[1] O. Kahn, C. J. Martinez, Science , 279, 44 (1988).

[2] J. F. Letard, P. Guionneau, L. G. Capes, Spin Crossover in Transition Metal Compounds III, ed by P. Gütlich, H. Goodwin, A. Harold, Springer, . 221 (2004).

[3] M. Matsuda, H. Tajima, Chem. Lett., 36, 700 (2007).

[4] M. Matsuda, H. Isozaki, H. Tajima, Chem. Lett., 37, 374 (2008).

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