Kumamoto University
[ Graduate School of Science and Technology]

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Arabidopsis

シロイヌナズナは草丈20−30cmほどの一年生長日植物で、タンポポのようなロゼット葉で冬を越し、春から初夏にかけて結実する。シロイヌナズナは日本中に分布しているが、ペンペングサに似た雑草である。実験室内で生育させると、世代時間が3−4ヶ月と短いため、年に3−4回は世代を回転させることができる。
 室内で栽培できるために、大規模な温室や農場を持たない研究室でも容易に育てることができる。染色体数は5対と少なく、遺伝視座のマッピングが容易である。さらに、顕花植物のなかでゲノムサイズが最も小さく 約1億塩基対しかないので、ゲノムライブラリーの作成やクローンの単離など、分子生物学的な様々な実験も容易に行える。また、シロイヌナズナの全ゲノムシーケンスは2000年に決定されている。さらに、シロイヌナズナの属するアブラナ科の植物には同じ個体の花粉では受粉できないものが多いが(いわゆる菜の花、キャベツ、ダイコン等)、シロイヌナズナは自家受粉するので、たった1本の植物体から種子を得て系統を維持することができる。
 現在シロイヌナズナを材料にした研究は活発に行われており、植物の形態形成のメカニズムから乾燥ストレスのメカニズム等を含む膨大な情報が得られてきている。和名では役にたたない植物につけられる" イヌ"という語がシロイヌナズナにはつけられているが、現在の植物科学において、大いに役立つことが示されたわけである。
 このように、植物科学に多大なる貢献をしているシロイヌナズナだが、分子生物学的な材料として用いられ始めたのは1990年頃からである。
 シロイヌナズナを用いた解析を行う場合、様々なバックアップ制度が存在する。まず、世界各地で収集されたシロイヌナズナの野生株や研究者が単離した突然変異体の種子やDNAクローン等をストックし、依頼に応じて配布するストックセンターがアメリカとイギリスに配置され、日本にも小規模ながら配置されている。また、染色体地図、突然変異体の形質の概略、遺伝子の塩基配列、文献や研究者のリストなどを網羅したデータベースがインターネットで利用できるようになっている。現在は、他の動植物のさまざまなデータベースや、各研究室のホームページにもリンクされるようになってきており、シロイヌナズナを用いた分子生物学的解析は、今後もさらに発展し、植物科学にさらなる貢献をすることはまちがいないと考えられる。

CLAVATAシグナル

はじめに

分裂組織

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 器官分化のほぼ全てが胚発生段階で完了する動物と異なり、植物は分裂組織により、死ぬまで新しい器官を作り続ける。このことから、この分裂組織は植物の形態形成において根本を担う重要な組織であり、その性質やサイズは厳密に、また遺伝的に制御されなければならないと考えられる。さらに、植物は移動できないために、様々な環境変化などに応じて、適切な形態変化をしなければならず、分裂組織内だけでなく、様々な器官からも情報を得て、分裂組織の性質やサイズの変更に対応しなければならないと考えられ、分裂組織を中心とした空間認識機構・細胞間情報伝達機構は高度に発達していると考えられるが、現在、その分子基盤が整っているとは言い難い状況にある。

CLAVATAシグナル伝達系

シロイヌナズナの茎頂分裂組織は、CLV3蛋白質がリガンドとして、CLV1, CLV2蛋白質がCLV3リガンドを受容し、分裂組織のサイズを縮小するように調節することが示唆されている。しかし、植物のその微細な空間認識機構などは全く明らかとなっていない。その鍵の一つとなるのが、CLV3がどのような実体を持ち、どのような空間移動様式をとるかという点であると考えられる。我々は、12アミノ酸からなり、特徴的な修飾をうけたCLV3ペプチドが植物組織に存在することを同定した(Kondo et al., Science, 2006)。
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非細胞自律的に機能するCLV3ペプチドホルモン

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CLV3発現領域と、下流因子のWUS遺伝子発現領域は重ならない事などから、CLV3ペプチドはCLV1, CLV2受容体を通してWUS遺伝子の発現を抑制し、WUS 遺伝子は、逆に非細胞自律的にシグナルを伝達し、CLV3遺伝子の発現を上昇させるという負のフィードバック機構が存在することも想定されている。

また、このペプチドは人工合成が可能であり、この修飾を受けた人工合成ペプチド添加は、CLV3 遺伝子の過剰発現と同様の効果を示し、茎頂分裂組織だけでなく、根端分裂組織も縮小することが明らかになったこと等から、合成ペプチドが、in vivoで本来の機能を持ちうることも示している。
(Ito et al., Science 2006)

CLVシグナルの解析

CLV3の下流因子の単離・解析

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 現在CLV3により、CLV3遺伝子自身の発現が抑制され、WUS遺伝子の発現も制御されることが示唆されている。また、実際、我々の合成ペプチドを添加することで、これらの遺伝子発現が減少することも見いだしており、さらなるCLV3の下流因子の同定を行う。まず、CLV3ペプチドを用いることで下流因子の遺伝学的探索が容易となる。CLV3ペプチドは茎頂分裂組織を縮小させ致死性を与えるため、致死性の復帰突然変異体を単離すれば下流因子が同定できる。現在の所、CLV3ペプチドに非感受性のサプレッサー突然変異体を既に多数単離しており、それらの原因遺伝子の解析を行っている。

ペプチドホルモン成熟に関わる
ペプチダーゼの解析

 これまでに、ヒトや酵母などの様々なペプチドホルモンの生成過程で、未成熟な蛋白質がペプチドホルモンへと成熟する際にカルボキシペプチダーゼが関与することが示されている。それらのペプチダーゼ認識配列がCLEペプチドにおいても保存されており、植物においてもそのような類似した機構が存在することが示唆された。本研究では、活性阻害ペプチド等を使うことにより、そのペプチダーゼの精製、単離を行い、遺伝子の特定を行うと共に、ペプチドリガンドの生成・修飾に関する分子機構を明らかにする。また、候補ペプチダーゼを用いた遺伝学的解析も進めている。

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CLEペプチドと植物ホルモン

 これまでに、ヒトや酵母などの様々なペプチドホルモンの生成過程で、未成熟な蛋白質がペプチドホルモンへと成熟する際にカルボキシペプチダーゼが関与することが示されている。それらのペプチダーゼ認識配列がCLEペプチドにおいても保存されており、植物においてもそのような類似した機構が存在することが示唆された。本研究では、活性阻害ペプチド等を使うことにより、そのペプチダーゼの精製、単離を行い、遺伝子の特定を行うと共に、ペプチドリガンドの生成・修飾に関する分子機構を明らかにする。また、候補ペプチダーゼを用いた遺伝学的解析も進めている。