「ナノヘルツ重力波天文学」が切り拓く、
超巨大ブラックホールと初期宇宙の最前線
私たちは今、目に見える「光」だけでなく、空間そのもののゆがみが波として伝わる「重力波」を通じて宇宙を理解する、全く新しい時代に生きています。
私たちのターゲットである「ナノヘルツ重力波」は、数年から数十年という極めてゆっくりとした周期で振動します。その発信源は、銀河の中心に潜み、互いの周りをぐるぐると回る「超巨大ブラックホールのペア」。また、宇宙誕生直後のビッグバンが残した痕跡(インフレーションや宇宙ひも)だとも言われています。
これらを観測することは「銀河はどう成長してきたのか」「宇宙の始まりの瞬間に何があったのか」という、人類の究極の問いに対する答えを探す壮大な挑戦なのです。
では、どうやってその微かな波を捉えるのでしょうか? 私たちの武器は、銀河系の中に浮かぶ無数の「パルサー」です。
パルサーは高速で回転する星で、原子時計に匹敵する極めて正確な周期で電波パルスを地球に届けてくれます。もし重力波が地球とパルサーの間を通り抜けると空間がわずかに伸び縮みし、パルスが地球に届く時刻に「一千万分の一秒」ほどのズレが生じます。
何十個ものパルサーの電波を受信し続け、このごくわずかな時刻のズレを10年以上にわたり監視し比較する技術。それが「パルサータイミングアレイ」です。銀河系全体をひとつの巨大な検出器に見立てるという、ダイナミックな手法なのです。
「背景重力波の兆候が得られた。しかし、その源がどこにあるのか特定できない。」
2023年、国際的なチームにより重力波の存在を示す兆候が報告されました。しかし、致命的な課題があります。それは、パルサーまでの距離が不確かなため、重力波が飛んでくる方向を絞り込めないということです。
さらに、数十のパルサーを長期間監視して得られるデータはあまりに膨大になりすぎており、既存の計算資源では処理が追いつかないという壁も存在しています。
日本が強みを持つ2つの独自アプローチが、停滞を打破します。
日本、インド、オーストラリア、中国、南アフリカなど、数千km離れた望遠鏡を連動させて一つの天体を同時観測する技術。地球の公転に伴う天体の見かけの動き(年周視差)を精確に捉え、従来の精度を7倍も上回る「誤差1パーセク」という極めて高い精度でパルサーまでの距離を決定します。
この超高精度の距離情報こそが、重力波の飛来方向をピンポイントで特定する最大の鍵です。
パルサータイミングアレイの解析には膨大な計算コストがかかり、現在主流のCPUでは全てのデータを有効活用することが困難です。そこで私たちは、複雑なデータ解析をGPU(画像処理半導体)向けに最適化。
「約100万並列」という異次元の高度な処理を行う専用ソフトウェアを開発し、観測データを最大限に活用することで重力波への感度を飛躍的に向上させます。
本研究で確立する観測・解析技術は、次世代電波望遠鏡「SKAO」による大観測時代へと直結します。
SKAOの圧倒的な感度で数千個ものパルサーを観測する時代において、私たちの提案する解析手法はその膨大なデータを処理する重要な基盤となります。
本プロジェクトは、今後数十年のスケールで発展する「重力波天文学」の歴史的な幕開けを切り拓く、確かな架け橋となるのです。
研究分担者
東北大学 理学研究科 教授
研究分担者
国立天文台 水沢VLBI観測所 特任専門員
研究分担者
宇宙航空研究開発機構 (JAXA)
追跡ネットワーク技術センター 主任研究開発員
本研究は、宇宙のパズルを解き明かすために、国境や専門分野を超えた国際協力ネットワークによって推進されています。 日本、インド、オーストラリア、中国、南アフリカの観測所と連携し、人類の英知を結集して未知の領域へ挑みます。