熊本大学 理学部

Pure Science

火山灰の地層から火山噴火の歴史を探る

くまもと水循環・減災研究教育センター / 地球環境科学コース 教授 宮縁 育夫

 わが国は111個の活火山を有する世界有数の火山国で,毎年のように噴火による災害が発生しています.例えば,熊本県には阿蘇火山があり,その中央に位置する中岳は日本で最も活発な火山の一つです(図1).中岳には西暦553年以降,数多くの噴火記録が残されており,それはわが国で最古の噴火記録になります.それぞれの火山で将来の噴火予測を行う場合,歴史時代だけでなく,少なくとも1万年間くらいの噴火履歴を明らかにする必要があります.みなさんは,そのような古い時代の火山噴火の歴史をどのようにして調べると思われますか.

 火山の周辺域には,その火山から噴出した火山灰や軽石などの火山砕屑物が厚く積もっています(図2).そういった火山灰などの地層は,その火山がどのような噴火を繰り返してきたのかを物語っています.一つ一つの地層を詳しく観察したり,噴出物を分析することによって,噴火の様式や発生頻度,どれくらいの量のマグマを噴出してきたのかがわかります.

 阿蘇火山における最近の噴火活動は数年~10年程度の間隔で起こっており,比較的小規模な活動が続いていますが,歴史時代以前にはさらに規模の大きな噴火があったことがわかっています.阿蘇火山の最大の特徴は世界最大級のカルデラをもつことです.このカルデラは約27万年前~9万年前までの間に起こった4回の巨大火砕流噴火によって形成されました.5回目のカルデラ形成噴火が起こるのかどうかは誰にもわかりませんが,わが国では数万年に1回程度の頻度で,そうした巨大噴火が発生しており,将来どこかの火山で必ず起こると予想されます.カルデラ形成噴火の予測は,現在の火山学における重要な研究課題の一つです.過去の巨大噴火ではどのような前兆現象が起こっているのか,どのような過程をたどって巨大噴火に至ったのかを地質学的調査によって明らかにし,将来の巨大噴火の推移予測に貢献したいと考えています.

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図1 阿蘇火山中岳における最近の噴火
(2015年1月13日撮影)

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図2 阿蘇カルデラ周辺域で見られる火山灰の層序