熊本大学 理学部

Pure Science

ナノの世界を探る ―2次元物質グラフェンの驚異的な特性―

物理学コース 准教授 原 正大

 ダイヤモンドや黒鉛(グラファイト)は炭素の同素体ですが、全く異なる性質を示します。ダイヤモンドは高価な宝石として流通しており、極めて硬く、電気を通さない絶縁体です。一方、黒鉛は鉛筆やシャープペンの芯の材料として利用され、剥がれやすく、電気を通す導体です。この2つの比較からも分かるように、物質の性質は構成する元素の種類だけでなく、物質の中で原子同士がどのように結合し、電子がどのように振舞うかで大きく変わります。

 黒鉛は層状構造をしており、層同士は比較的弱い力により結合しているため、簡単に剥がすことができます。上手に剥がすと「グラフェン」と呼ばれる1層分のシートが取り出せます。グラフェンは極薄ですが、電気や熱を良く伝えるなど、未来の先端材料として注目を集め、2010年のノーベル物理学賞の対象にもなりました。

 グラフェンは炭素原子1個分の厚みしかありませんので、目視することは不可能です。物を上に載せたら簡単に破れてしまう気がしますが、実際はどうでしょうか?グラフェンは炭素原子が平面的に結合した2次元の物質ですが、その結合は強いため、とても破れにくいことが分かっています。仮にグラフェンでハンモックを作れたとしたら、そのハンモックに猫を載せても破れないと言われています。

 このようにグラフェンは様々な興味深い性質を示すため、世界中の研究者が競って研究を行っています。ここでは、私の研究室で最近行っているグラフェンの弾性を調べる実験について紹介します。ハンモックのように大きなグラフェンを作って吊るすのは現時点では不可能ですので、基板に小さな円形の穴(直径1マイクロメートル以下)を掘り、その上にグラフェンをかぶせることで、小さなドラム構造を作ります。そのグラフェンドラムを先端が尖った針で少しずつ押していくことで、グラフェンの弾性を調べています。

 この実験では原子間力顕微鏡という装置を使って、ナノメートル(100万分の1ミリ)スケールでの観察や制御を行っています。原子間力顕微鏡は、先端が尖った針を観察試料に近づけていき、針と試料の間に働く原子間力を高感度に検出することで、試料の凹凸を画像化する顕微鏡です。この技術を使うと、針の先端をドラムの中心付近に接触させて、さらに押し込んでいくことができます。過去の研究では押し込みの深さと針に働く力の関係からグラフェンの弾性を調べる方法が報告されていましたが、新しい方法として、針に生じる熱振動の周波数変化を検出することでもグラフェンの弾性に関する情報を得られることが分かりました。

 現在のパソコンやスマートフォンに使われている電子部品は主に半導体のシリコンを微細加工して作製されています。グラフェン以外にも極薄の材料が次々と研究されており、将来はこれらを使った製品が世の中に出てくるでしょう。原子間力顕微鏡のような最先端の実験装置を使うことで、小さな世界の諸現象を探求し、世の中の発展につながる基礎を築くことを日々目指しています。

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図1 【左】実験のイメージ図 【右】原子間力顕微鏡画像(ドラム部分が凹んで観察される。)