熊本大学 理学部

Pure Science

デジタル信号が持つ奥深さ:極小力学系

数学コース 准教授 杉﨑 文亮

 昨今この世の中では「デジタル化」が多く謳われています。対照的な言葉は「アナログ化」でしょうか?今のところ「デジタル化」によって恩恵を受けていることの方が多い気がします。この10数年ではテレビの「地デジ化」により高画質映像が楽しめるようになり、古く遡ればレコード(アナログ)からCD(デジタル)へノイズのない音の世界を体験できるようになりました。いづれも劇的な変化です。

 デジタルが持つ重要で本質的なことは、情報を0と 1の二つの数字を組み合わせて表現することです。たった 2つの数字だけで何かできるの?って思ってしまいますが、別な見方をすると、○か×、「白」か「黒」、「Yes」か「No」、「好き」か「嫌い」の2組の組み合わせでもって、世の中のほぼ全ての情報が表現出来るということなんです。単純さが産み出す複雑性はとても興味深いですね。私が行っている研究を簡単に言うと、このデジタル信号の持つ複雑さについての解析を行っています。とは言ったもののこれだけでは何も通じないと思いますので、ほんの少しデジタル信号について解説したいと思います。

 今、0と1からなる下記のような右方向にも左方向にも無限に続く数列(両側無限列と言います)を考えてみましょう。

img_vol15_2.jpg

 よく見ると赤い点「.」がありますが、これは位置を示す点で「.」を境に右へ0番目、1番目、2番目、· · ·、また「.」を境に左へ−1番目、−2番目· · ·と0と1並んでいると解釈します。更に上記数列を見てすぐ分かるのは「001」の繰り返しで並んでいると言うことです。このような両側無限列のことを「周期点」と呼び、最小周期は3であると言います。

 周期点からは何も複雑めいたものは見えません。そこで「非周期点」を単純なルールで生成してみましょう。そのルールは「置き換え法(substitution)」というもので、
0 → 0110 1 → 1001
のように0が現れたら「0110」に、が現れたら「1001」に置き換えていきます。例えば

img_vol15_3.jpg

のようにルールに従って置き換えていき、この操作を無限に繰り返すことによって「非周期的」な両側無限列を生成することが出来ます。

 この置き換え法によって出来た両側無限列は周期構造を持たないだけではなく、「極小性」と呼ばれる性質を持ちます。それは次のように説明できます。両側無限列中に現れる数字の並び(ブロックと呼ぶことにします)、例えばブロック「1011」に注目しますと、「1011」が必ず右にも左にも無限回両側無限列に出現します。しかも次に現れる「1011」がある一定の長さ以内で必ず現れます。周期性を持っていたら現れ方が一定なのは当然ですが、周期的でないものでこのような性質を持つ両側無限列はとても面白い性質を持ちます。もし「1011」以外の任意のブロックもこのような性質を持つとき「極小的」であると呼びます。

 話が冗長になってしまいましたが、極小性を持つ両側無限列が織りなす不思議な性質を、数学の「解析学」を用いて研究(極小力学系理論)することがとても楽しいです。その楽しさを共有出来ると良いのですが、興味を持って頂けれるのであれば、是非研究室にお越し下さい。歓迎しますよ!