熊本大学 理学部

Pure Science

X線分光でみる固体中の電子の振舞

物理学コース 教授 水牧 仁一朗

X線は光の1種で我々が見ることのできる可視光にくらべて高いエネルギーを持ちます。この高いエネルギーをもったX線は、人体や金属物質の内部構造を観察するのに非常に有用な光です。さらに構造だけではなく、固体の物性を支配する電子構造を調べるのにも非常に役に立ちます。

我々の研究室では、このX線を用いて磁性体や超伝導体の電子構造を観察し、それらの物性の起源を解明する研究を行っています。またX線を100nm程度まで小さく絞り、電子構造や磁性体の磁気モーメントの空間分布を測定するX線顕微鏡により、磁性体の不均一性が磁性材料の特性に与える影響についても研究を行なっています。

 最近は特にX線顕微鏡を用いて磁性材料の磁気モーメントの空間分布が磁場に対してどのように変化するかを観測し、その画像データに対して、機械学習的な手法を用いて磁性材料のもつ特性を定量的に導出することを試みています。
 例えば、図のような磁気モーメントの空間分布の画像のセットを磁気異方性の強さと印加する磁場の変化の速度に対して、たくさん用意し、それらをConvolution Neural Networkと呼ばれる深層学習法により学習し、磁気異方性と呼ばれる磁気モーメントの向きを決定するパラメータを画像から抽出することを可能にしました。

 このように、生活を支えている磁性材料の電子状態から磁気モーメントの空間分布までをX線を用いて観測し、機械学習の手法を用いてその特性を明らかにする研究手法はこれから必要不可欠な方法となっていくと考えられます。

図 磁気モーメントの空間分布(横軸が磁気異方性の強さを表し、縦軸が磁場変化の速度)

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