熊本大学 理学部

Pure Science

その生態系の生物多様性(種数)は何によって決まっているの・・?

生物学コース 准教授 山田 勝雅

 例えば,あなたの家の近くの公園に生息する生物種を全て調べたとしましょう.調べた結果,この公園には(菌類やバクテリア・ウィルス等を除いた)動植物を合わせて87種を発見することができました.ここで,ふと,疑問が生じます.なぜ,87種なのでしょうか.87種でなくてはならないどんな理由があったのでしょうか?どうやって「この公園は87種生息できます!」と決まったのでしょうか.また,87種であることは,生態系にとってどんな意味があるのでしょうか.

 私たち山田研究室では,この「なぜ?」の解明を,沿岸生態系(干潟,海草・海藻藻場,岩礁潮間帯)に生息する生物種や生物群集を対象に行っています(群集生態学,個体群生態学,行動生態学,生態系生態学).個体から個体群,群集といった異なる階層で,個体間,種間に生じる競争,捕食,植食,寄生・共生といった生物間相互作用の様相を把握し,それらが結果的に,適応戦略や生物多様性の維持,生態系の機能をどのようにもたらしているか,生物多様性形成のプロセスとメカニズムの解明を行っています(図1, 2).

 生物多様性の減少が尋常ではない速度で進む今日において,生物多様性の維持機構を解明することは急務です.さらには生態系の崩壊により,私たちが利用している自然資源(例えば水産資源)も減少の一途を辿っているのが現状で,一刻も早い対応策の構築が望まれます.しかし,自然を相手にした,生態系の研究は1個体1個体,1種1種,ひとつずつ,一歩ずつ,こんがらがった縄をほどくようにしか研究を進められません.例えば,ある1種がなぜその場所に生息しているかを解明しようとするならば,まずはその種の生態的特徴 (Ecological trait)を理解するために,どんな生息場所を好むか,何を食べているか,どの種とどんな競争しているか,「モニタリング」と「観察」を行うことが第一歩目となり,私たちの研究のゴールは.遥か遠くに感じてしまうかもしれません.

 けれども地道に,少しずつでもいいから,このこんがらがった紐をほどき続けていくことで,小さな発見が積み重なって解決策を見いだせるはずです.人類が生態系の多様化を促進しつつ,自然資源を持続的に利用できるような共存機構の構築に辿り着くまで,私たち研究室の挑戦は続きます.

yamada1_vol18.jpg

図1. (局所的)群集集合の形成機構の概念図 (Morine 1999, 佐藤 2001, 宮下と野田2003, 平尾ら 2005を改変)

yamada2_vol18.jpg

図2. (地域的)群集の種多様性の決定プロセス仮説の概念図と,決定機構と考えられる8つの仮説 (Pianka 1988, 佐藤 2001,宮下と野田 2003を改変)