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熊本大学 理学部

Pure Science

4次元空間内の曲面の研究

理学部数学コース 安藤 直也

筆者が熊本大学に着任したのは,2002年10月である.それまでの主な研究対象は,曲面上の孤立臍点の周りの主分布の振る舞いである.現在も梅原雅顕氏(東京科学大)と研究を続けている.また,曲面の第一基本形式と主分布の関係を着任後に調べ始め, 曲面の基本方程式であるGauss-Codazzi方程式から導かれる過剰決定系についての研究に至った.本稿では,やはり着任後に調べ始めた4次元空間内の曲面についての研究を紹介したい.

簡単のため,まず空間を4次元Euclid空間E4とする.E4における議論を行う際,E4の2重外積空間∧2E4というものを考える.∧2E4は6次元のベクトル空間で,2つの3次元部分空間∧2+E4,∧2-E4の直和で表される.E4の内積は∧2E4に内積を定め,∧2+E4,∧2-E4はその内積に関して互いに直交している.さて,∧2+E4,∧2-E4において単位球面を考える.それらをそれぞれΣ+-で表す.E4内の曲面Sが与えられたとき,Sの各点での接平面に対しΣ+-それぞれの元を対応させることができる.このようにして得られる写像F+,F-を曲面S のツイスター・リフトと呼ぶ.また,F+,F-の組G=(F+,F-)を曲面SのGauss写像と呼ぶ.

曲面Sが極小であるとする.つまり,曲面Sの平均曲率ベクトルがどこでも零であるとする.このときGauss写像Gは複素関数論における正則性を有することが知られている([Hoffman-Osserman,1980]). さらに,極小曲面が等方性というものを有することと,F+,F-のいずれかが一定であることは同値であることが知られている.E4を2次元複素数空間C2と同一視することで,E4内の等方的な極小曲面をC2 内の複素曲線とみなすことができる.

E4内では以上のようなことが知られている.空間を一般の向きづけられた4次元Riemann多様体Nにしたとき,Nに付随するツイスター空間というものを考えることができる.N内の曲面のツイスター・リフトは,N に付随するツイスター空間への写像として定義される.そして,N内の極小曲面について,前段落と全く同様とはいかないが,一般化された議論を行うことができる([Eells-Salamon,1985],[Friedrich, 1984]).特に,Nが4次元単位球面S4の場合には,ツイスター空間は3次元複素射影空間CP3によって与えられ,曲面のツイスター・リフトはPenroseのツイスター写像T:CP3→S4 に関連して定義される([Bryant,1982]).

それでは,空間が相対性理論に現れる4次元Minkowski空間E41のとき,何が起きるだろうか?E41は4次元Lorentz多様体の典型例であり,その計量は(+, +, +, -) という符号を持つことが知られている.計量の符号を(+, +, -, -)とした空間は4次元ニュートラル多様体であり,E41に相当するものはE42と表される.筆者の研究には,空間が4次元Lorentz多様体や4 次元ニュートラル多様体の場合も現れる.応じて,曲面に導かれる計量の符号は(+, +)の場合もあれば,(+, -)の場合もある.以上のようなものについて,統一的に議論できるならば統一的に議論し, 個別の事情があればそれらを考慮しつつ研究を行うことで,体系的な理解を得たいと考えている.