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熊本大学 理学部

Pure Science

パルス光で拓く新しい有機合成化学

化学コース 前野 万也香

1828年ドイツのヴェーラーによって,初めて有機分子である尿素の人工合成が成されました.これが"有機合成"の幕開けとされています.以来,染料や繊維,プラスチック,医薬品から電子材料まで,我々の身近にある多くのモノ(分子)が有機合成によって生み出されています.豊かな生活には欠かせない有機合成ですが,分子の合成には多くの化石資源とエネルギーを必要とします.それ故に,少ない資源とエネルギーで効率的に有用な分子を作り出す新しい有機合成が求められています.その一つの方法として,光反応が注目されています.光反応は一般的な合成反応(熱反応)と比べて穏和な条件で反応が進み,特異な化学選択性を発現できるため,熱反応では合成できない多様な分子を効率的に合成することが可能です.ただ,一般的な光反応は,反応の初めから終わりまで光を当て続けるため,必要以上の光エネルギーを消費します.私はこのエネルギーの無駄使いを無くすために,光を点滅させて(パルス光照射),エネルギーの利用効率の高い光反応の開発を行っています.

(1)パルス光を使用するための反応装置の開発
多様な合成反応に対応するために,パルス光の波形を高度に制御して照射できる,新しいパルス光反応装置を開発しました.また,反応溶液に対して均一に光照射を行うため反応容器にも工夫をしています.

(2)パルス光を使った光反応
開発したパルス光反応装置を用い,さまざまな光反応の開発に取り組んでいます.例えば,ベンゼン環に対しトリフルオロメチル(CF3)化反応を行うと,連続光の10分の1の照射光量に相当するパルス光照射で,目的とする化合物がより高い収率と選択性で得られました.また,同じ照射光量のパルス光でも,その波形を変えることで収率が変化するということもわかりました.これらの結果から,パルス光を使用することで光反応のエネルギー効率が向上することが証明されました.さらに光照射をしない時間を設けることで,過剰反応を抑制できることも明らかとなりました.この他にも,選択性制御に効果があることが見出されており,パルス光による精密反応制御やクリーン・省エネルギーな光反応開発への展開を目指しています.