
地球環境科学コース 小島 知子
大気に含まれる「PM2.5」が人体に有害であることはよく知られています。PM2.5の「PM」は英語の Particulate matter(日本語で「粒子状物質」)の頭文字から取っており、大きさが2.5 ミクロン(2.5/1000ミリメートル)以下の粒子ということを示しています。PM、つまり粒子状物質の発生源として様々なものがありますが(図1)、風に巻き上げられた土ぼこりや波しぶきが乾いた海塩粒子のように、粒子の状態で直接大気に放出されたものは比較的サイズが大きく、数ミクロン〜数十ミクロンの「粗大粒子」(図2)となります。一方、硫黄酸化物や窒素酸化物などの気体が大気中の化学変化によって粒子化した硫酸塩や硝酸塩、有機化合物の粒子(図1)は小さく、PM2.5の大部分を占めます(図2)。このような小さな粒子はいったんヒトの呼吸器に入ってしまうと排出するのが難しいため、粗大粒子よりも有害であるとされます。

図1 PMの様々な発生源

図2 PMのサイズ分布(横軸は対数軸)
これまでの多くの研究により、ある地域でPM2.5の濃度が上がると、そこでの死亡率や呼吸器および循環器疾患の罹患率が有意に上昇することが確認されています。しかし、PM2.5は単に「2.5ミクロンより小さい粒子状物質」というだけで、実際にどのような物質がどれだけ含まれているか、粒子のサイズ分布はどうなっているかは時と場合によって大きく異なります。そのため、一概に「これぐらい有害である」と決めることはできません。日本では、また熊本県ではどうなのかを知るため、私の研究室では、医学系やデータサイエンスの研究者の方々と協力し、PMの健康影響について調べています。一例を挙げると、スペインの研究機関との共同研究により、小児の疾病である川崎病の発症に、PMに含まれる重金属が関係する可能性があることを示しました(図3)。

図3 2011年3-4月の熊本における大気中の重金属濃度(赤線)と川崎病の発生件数(黒線)の推移。Rodó et al.(2023)より引用
大気中の目に見えない小さな粒子は、大気汚染の観点からはPM、気象学の観点からは「大気エアロゾル粒子」と呼ばれます。これらは人間の健康に影響するのみならず、光散乱や雲形成を通じた地球温暖化の進行、降雨プロセスへの関与、微生物の拡散など、環境問題に関わる様々な事象を左右します。知れば知るほどさらに勉強することが出てくる、まさにサイエンス(=知ること)の対象として奥の深い研究テーマです。