
生物学コース 石田 喬志
道端に咲く小さな草花と、見上げるほど大きな木。同じ植物どうしで、なぜその「大きさ」はこれほどまでに違うのでしょうか?植物が持つ巧みな「成長戦略」の謎を解き明かすことが私たちの研究テーマです。個々の生物や葉・花といった器官のサイズがどのようにして決まるのか、この生命科学における根源的な問いに私たちは挑戦しています。
植物の体が大きくなる仕組みは、主に二つの要素で決まります。一つは細胞の「数」を増やす「細胞分裂」。そしてもう一つは、細胞一つ一つの「サイズ」を大きくすることです。この細胞サイズを大きくするユニークな仕組み「核内倍加(かくないばいか)」を私たちは研究しています。核内倍加は、細胞分裂をやめた後、細胞の中で生命の設計図であるDNAだけを複製していく現象です。DNAの量が増えるのに対応して、細胞は風船が膨らむように大きく成長していきます。植物は、この「細胞分裂」と「核内倍加」のタイミングを巧みに切り替えることで、葉や果実を適切な大きさや形に作り上げているのです。


私たちは、この絶妙な「切り替え」の仕組みを解明するため、様々なアプローチで研究を進めています。例えば、植物の葉の表面を顕微鏡で観察すると、パズルのように組み合わさった大小様々な形の細胞でできていることがわかります。 この一つ一つの細胞の振る舞いを詳細に追う「顕微鏡観察」。大きさの制御に不可欠な遺伝子を探し出す「ゲノム編集」技術。そして、特殊な化学物質を使って細胞の成長を操る「ケミカルバイオロジー」。これらの技術を組み合わせることで、私たちは生命のプログラムの謎に迫っています。
一つの細胞の中で起こる小さな変化が、植物全体の形や大きさを決めていく。このような生命の根本原理を解き明かす基礎研究は、壮大な謎を一つずつ解き明かしていくような探求です。そこで得られた知見は、将来的に「植物デザイン技術」へと発展する可能性を秘めています。例えば、作物の大きさや形をコントロールして収穫量を増やしたり、厳しい環境変動の中でもたくましく育つ力を高めたり、あるいは観賞用の植物をこれまでにない美しい形に創り変えたり。植物の「大きさ」というテーマの探求は、私たちの食や暮らしを豊かにする未来に繋がっています。この精巧な仕組みの解明に向け、私たちの挑戦は続きます。