purescience

第13号 2018年12月

自然は組織に宿る 地球惑星環境進化にかかわる鉱物形成過程

地球環境科学コース 教授 磯部 博志

私たちの目に写り、手に触れる対象は、何を材料として、どのようにして作られてきたのでしょうか。私たちの周りの世界は、けっして一様な、均質な世界ではありません。そこには多様な、様々な形と組成、組織を持った対象が存在しており、互いに様々に作用しながら移り変わっています。

それら事物の中で、地球をはじめとする天体を作っている固体のほとんどは、この宇宙ではありふれた、限られた種類の元素から出来ています。それらは、材料である元素が持つ性質と、その時、その場の環境に応じて無限に多様な組織を作り、それらは常に変化しつつ現在の世界を作っています。

元素が固体を作るとき、多くの場合まず出来るのは元素そのものが持つ性質によって決まる結晶です。理想的な結晶の特性は、原子が持つミクロな性質によって決まると考えられます。しかし、自然は理想的な結晶で出来ているわけではありません。天然の過程によって出来た無機物の結晶を、私たちは鉱物と呼びます。鉱物は、時に極めて興味深い形と組織を示します。そして、それら鉱物の形や組織は、それを作った環境とそこでの鉱物の形成過程について様々な情報を語ってくれます。鉱物は、ミクロな原子の世界と、天然の組織によって作られている、私たちの住む世界をつなぐ情報を持っているのです。

私はこれまで、主に隕石や火山性変質物などの天然試料の観察に基づく研究や、それらに見られる鉱物の組織がどのような環境で、どのような過程によって変化し、またそれらの過程が逆に環境にどのような影響を与えるかについて実験によって再現し、天然の鉱物と比較する研究を行ってきました。地球表層の環境によって影響され、また影響を与える可能性がある鉱物の形成過程は、極めてゆっくりと進むものもあれば、ごく短時間で進むものもあります。どちらも、反応が終わるまで完全に進んでしまう場合や、反応途中で止まってしまう場合があります。それら多様な現象は、そのまま天然の鉱物の多様な組織形成につながっています。

たとえば、図1に示す粒子は、流星物質の加熱現象を再現する実験によって生成した、1秒程度のごく短時間だけ加熱され、溶融した粒子の電子顕微鏡写真です。このような試料を観察、分析することにより、地球に現在最も多く降り注いでいる固体惑星物質がどのようなものなのか、また、それが現在の地球環境にどのような影響を与える可能性があるのかを研究しています。さらに、これらごく短時間加熱され、急冷された惑星物質の内部では、極めて短時間のうちに、磁鉄鉱が特徴的な配列を持った結晶として成長しています。これは、結晶の成長と組織形成がどのような過程によって支配されているのかについて、重要な情報を与えてくれるものと考えています。

実験室で再現された溶融微小隕石
図1 実験室で再現された溶融微小隕石
かんらん石樹枝状結晶集合体の表面に放射状の磁鉄鉱結晶が存在している。
スケールバーは20μm