トピックス

卒業に際してのメッセージ


卒業生の皆さん。ご卒業おめでとうございます。

 本日ここに、令和元年度熊本大学理学部の卒業生として180名、自然科学教育部博士前期課程408名、うち理学専攻78名、博士後期課程22名、うち理学専攻・複合新領域科学専攻7名を送り出せることを非常にうれしく思います。一方で、新型コロナウイルス感染予防の関係で卒業式を開催せず、このような形で皆さんにメッセージを送ることになり、たいへん残念に思います。ほとんどの皆さんは平成28年4月に発生した熊本地震を経験されており、大変な時期を過ごされました。理学部卒業生の多くの方が理学部入学式直後の事だったと思います。ご卒業間際の大切な時期に、再び、通常とは異なる経験を強いることになってしまいました。重ね重ね、残念でなりません。

 熊本地震の際には、熊本大学としては4月14日の地震の翌日から5月9日の授業再開まで約3週間の休講期間がありました。日常生活でも不自由な状況だったのではないでしょうか。一方で、災害復旧に対して協力しあう連帯感や、色々なところから寄せられた温かい支援のありがたさを知ることができました。皆さんの中にも、ボランティア活動をされた方もいらっしゃると思います。地震後の4年間の大学生活の中でも、課外活動やキャンパスクリーンデーなど色々な場面で大学の行事に多くの学生・院生の皆さんに協力して頂きました。この場を借りてお礼申し上げます。地震直後の時と同じように頼もしく感じました。今後も理学部や理学専攻等の卒業生、修了生として社会に何で貢献できるかを常に考えて行動して頂きたいと思います。

 理学部卒業生の多くの皆さんが入学された平成28年当時の事を少し思い出したいと思います。すでに述べましたが熊本地震は平成28年のことでした。その他にも、伊勢志摩サミット、オバマ大統領の広島訪問、イチロー選手の大リーグ通算安打記録の更新、イギリスのEU離脱を決めた国民投票、相模原障害者施設殺傷事件もこの年でした。リオデジャネイロオリンピック・パラリンピックも4年前の平成28年ですし、ボブ・ディランがノーベル文学賞を受賞した年でもあります。科学に関する出来事としては、原子番号113の元素としてニホニウムという名称が決定したのは平成28年11月であり、平成28年のノーベル生理学・医学賞は大隅良典先生が受賞されました。

 4年間はあっという間に過ぎ、ついこの間の様に感じる出来事もあれば、まだ、解決していないのかという出来事もあります。また、この4年間の間に地震や台風、豪雨災害などに代表される自然災害の被害が大きくなってきたと印象を持っている人は私だけでは無いと思います。更に、卒業式中止の原因となっている新型コロナウイルスの様な感染症の出現など全世界に影響する大きな問題も発生しています。これらの課題解決に自然科学が果たす役割は大きいと考えます。基礎研究を通して問題解決に貢献するとともに、正確な知識で冷静な判断を下せる社会人としての役割も大切だと思います。理学部卒業生、理学専攻修了生としての大きな役割ではないでしょうか。

 卒業にあたり前理学部長の高宮先生から引き続き同じことを皆さんにお願いしています。それは熊本大学に入学後、卒業、修了までの間、皆さんを支えてくれた人、支援してくれた人に感謝の言葉をお伝え下さい。ご両親やご家族の方、指導教員、研究室やクラブ・サークルの友達、アルバイト先の先輩や同僚、地域支援やボランティア活動の仲間など思い浮かべる顔は人それぞれかと思います。また、感謝の気持ちを表す方法もそれぞれかと思います。皆さんが思う方法で、感謝の気持ちを伝えて下さい。卒業は感謝の気持ちを示すのに最も適した機会だと思います。

 最後に、令和元年のノーベル化学賞を受賞された吉野彰先生の言葉を皆さんに送りたいと思います。
「研究を成功させるためには、壁にぶつかった時に何度も耐え抜く粘り強さと、『ああ、何とかなるわね』という柔らかい発想が必要である。」

 今後の人生の中で壁にぶつかることもあるかと思いますが、何度も耐え抜く執着心と柔らかい発想で、乗り越えて下さい。熊本大学理学部、大学院自然科学教育部(研究科)を卒業したことを誇りに、自信をもってそれぞれの道を歩んで下さい。

 皆さんの今後の活躍を期待しています。

 ご卒業おめでとうございます。

令和 2年 3月 24日

熊本大学理学部長・大学院自然科学教育部長 市川 聡夫