セミナー・講演


過去のコロク


第28回
生分解性高分子の熱的性質
日時:平成18年3月17日(金)15:00~
会場:理学部3号館321講義室
講演者:反応化学講座 小川芳弘助教授
合成高分子は多くの優れた性能と機能を持ち、その便利さから大量生産・大量消費されているが、その大量廃棄は社会問題化している。古くは自動車のバンパー、最近ではペットボトルや発泡スチロールなどの回収が行われ、リサイクルされてきたが、土の付着したビニールハウスやポリマルチなどはほとんど産業廃棄物として捨てられている。生分解性ポリマーは土に埋めれば土中生物により数ヶ月で二酸化炭素と水に分解されるため、そのまま畑の隅に埋めて置いておくことができる。現在、生分解性ポリマーは農業資材、土木資材、包装資材などに実用化され、さらなる発展が期待されている。 このコロクではモデル化合物を使って生分解性高分子の熱的性質について熱力学的立場に立って紹介する。


第27回
ブラックホールまわりの降着円盤
日時:平成18年1月27日(金)16:10~
会場:理学部3号館321講義室
講演者:基礎物理科学講座 荒井賢三教授
太陽の20倍以上の質量をもつ星はその進化の最終段階でコアの重力崩壊により超新星爆発を起こすが,吹き飛ばされたガスは中心に残された中性子星に向けて再び落下する。これによって中性子星は質量が増加しブラックホールになると考えられている。一方,銀河の中心領域には超大質量のブラックホールが存在することが示されている。
これらのブラックホールのまわりをケプラー回転するガスは粘性によって角運動量を失いつつ落下しながら降着円盤を形成し,大部分のガスは中心からのジェットとして円盤と垂直方向へ放出される。円盤内部では粘性による加熱で非常に高温となり,核融合反応が進行して,Cr, Fe, Ni などの元素を合成する。
今回は円盤の物理状態とそこでの核反応について話します。


第26回
Wiener sausage をご賞味ください
日時:平成17年11月18日(金)16:10~
会場:理学部3号館321講義室
講演者:相関数理科学講座 濱名裕治教授
1827年に R. Brown によって観測された水に浮かべた花粉の不規則な運動をブラウン運動とよんでいると中学時代に教わりましたが,それは長岡半太郎氏による紹介の仕方に間違いがあったようで,正確には水に入れた花粉が膨張して破裂したときに中から出てきた顆粒状の微細粒子の不規則な運動だそうです. 1905年の A. Einstein によるブラウン運動の理論的かつ数量的研究を経て, N. Wiener が 1923年にブラウン運動の数学的モデルを構成することに成功しました.その功績に敬意を表して,確率論ではブラウン運動のことを Wiener 過程とよぶことも多いです.ちなみに,Einstein がブラウン運動を定式化する前の 1900年に Bachelier がすでに株価変動のモデルの中にブラウン運動を見出していました. さて,本題の Wiener sausage ですが,ブラウン運動の道に沿ってボールを動かしたときにできる図形を Wiener sausage とよんでいます. 文献に初めて登場するのは Journal of Mathematical Physics, Vol.15 (1974) に掲載された Kac-Luttinger による論文だと思います. そこでは,立方体に不規則に球状の穴をあけた領域における熱方程式の Dirichlet 問題の基本解のトレースについての熱力学極限(と彼らはよんでいます)が論じられています. その極限を求める際に,Wiener sausage の体積のラプラス変換が現れます.彼らは Wiener saisage のことを sausage-like set とよびました.さらに,ある種のランダムシュレデディンガー作用素の状態密度関数(あるいはスペクトル分布関数)との関係や,スペクトルの漸近挙動(Lifshi tail とよばれています)が得られることがわかっています. 今回の講演では,Wiener sausage が関連する自然現象(正確にはそれを記述する方程式,モデル)と,数学における研究対象として,主に確率論で取り扱われきた内容を紹介する予定です.


第25回
X線で極限条件下の原子の動的挙動・構造を見る
日時:平成17年10月21日(金)17:30~
会場:理学部2号館4階数学第二講義室
講演者:地球変遷学講座 吉朝朗教授
X線回折法やX線吸収分光法を用いて原子レベル構造を明らかにし、さらに原子のダイナミクスを計測する方法を紹介する。 この方法は、超高圧・超高温下、高酸素圧下、強磁場下など各種の極限環境下にても行うことができ、さらに微少試料や微量含有元素の局所構造の解析も行うことができる。 地球の深部や中心核のダイナミックスや恐竜絶滅の謎を解くヒントを与えてくれる地球惑星物質に残された記録の解読、イオン導電体や新規材料の物性の発現機構の解明つながる解析例、さらに犯罪捜査の新手法の開発の可能性など将来の応用についても語る。


第24回
オスとメスはどうやって決まるか?
日時:平成17年7月29日(金)16:10~
会場:理学部3号館321講義室
講演者:生体機能学講座 北野健助教授
多くの脊椎動物の性は、遺伝的性(XX-XY)によって決定され、XX性染色体を持つ個体はメスへ、XY性染色体を持つ個体はオスへと分化します。 しかしながら、メスへの分化に必要な因子を欠いたXX個体は、メスではなくオスへと性転換することが知られています。 私たちは、これらのメカニズムを解明するため、容易に性転換が可能な魚類(メダカ・ヒラメ)をモデル動物として用い、分子レベルでの研究を行っています。 ここでは、現在進めている性決定・性分化研究の内容について説明するのと同時に、私たちがめざす応用研究について紹介します。


第23回
大気エアロゾルのキャラクタライゼーション
日時:平成17年6月10日(金)16:10~
会場:理学部3号館321講義室
講演者:環境解析学講座 小島知子助教授
大気中に浮遊する微細な粒子が雲の形成や降水などの気象現象に大きな役割を果たすことは古くから知られていたが、近年では、温暖化やオゾン層破壊といった地球規模の大気環境問題と関連して、その重要性が再認識されている。 一口に大気エアロゾルと言っても、その構成粒子の化学組成や物理特性(粒子サイズや形状、数密度)は様々であり、それぞれが気象や大気化学に与える影響の質も程度も異なる。例えば、土壌から巻き上げられた粘土鉱物の粒子は、上空において周囲に氷の結晶を成長させ、上層雲を発達させるのに有効であるのに対し、海塩粒子はむしろ低空の雲を形成しやすい。さらに、起源の異なる粒子同士が大気中で付着合体することにより、複雑な性質を持つことになる。より実際に即したモデル計算のためにも、大気エアロゾルの個々の粒子について、詳細 な化学的・物理的特性のデータを得ることが必要である。 本講演では、電子顕微鏡を用いたエアロゾル粒子の個別分析の手法を紹介し、これまでの研究で得られた知見と今後の課題について説明する。



第22回
シダ植物の多様性を探る
日時:平成16年12月10日(金)14:30~
会場:理学部3号館321講義室
講演者:自然科学研究科 高宮正之助教授
シダ植物は単純な形態を持ち、初期の陸上植物であることから、過去に繁栄しながらも種形成のピークが過ぎ、残存的な植物群と思われがちだが、最近の研究では被子植物が爆発的に増えた白亜紀に種分化が進んだことが推察されている。 シダ植物はこれまで世界で約18000種、日本には約750種が知られる。同じような面積をもつイギリスで約100種、ニュージーランドで200種であることと比較すると、日本のシダ相がいかに豊かであるかを知ることができる。 さて、環境庁の2000年レッド・データ・ブックによれば、日本産シダ植物のうち172種が絶滅が危惧されている。実に約25%の生存が危ぶまれている。 しかしながら、これらの種数は生物学的に正式に名が付けられた(命名規約という法律に則って学名が記載された)シダ植物で、実際には未知なものや命名記載を待ちながら絶滅してしまいそうなものも日本にまだある。 我々の研究室ではシダ植物の多様性を探る目的で、様々なシダ植物の分析を行ってきた。 今回は、細胞学的、形態学的、分子遺伝学的に調査が進んだノコギリシダ属 Diplaziumについて、解析方法、系統関係、種の認識、種の分化、保全などについて紹介する。



第21回
量子計算、量子通信、
そして量子メモリー
日時:平成16年11月12日(金)14:30~
会場:理学部3号館321講義室
講演者:物性物理科学講座 光永正治教授
量子力学の原理に基づく新しいタイプの情報の処理、伝送、そして記録の研究が、最近、量子光学分野を中心に、物理学界を喧騒の渦に巻き込んでいる。 量子情報処理と呼ばれる分野がそれで、量子計算、量子通信、量子メモリー等のタイトルの下、幾多の国内外の研究者が理論的実験的研究に取り組んでおり、我々の研究室でも、量子メモリーの可能性を求めて、その実験的研究に着手したところである。 このコロクでは、入門編として、量子計算、量子通信、量子メモリーとは何なのかを概説し、本当に実用化されるのか、あるいは、物理学者の壮大なおもちゃなのかを探る。 さらに、ナトリウム蒸気、及び、ナトリウム冷却原子を用いた、相関光子対の発生、あるいは光情報記録といった、最近の我々の研究室における成果を紹介する。