セミナー・講演


過去のコロク


第10回
有機固体の光電子分光
日時:平成15年7月11日(金) 14:30~
会場:理学部大会議室
講演者:物質化学科 藤本斉助教授
H.R.Hertzによって世界で始めて光電効果が観察されたのは1884年のことです。その後の一連の光電流の研究が,1899年J.J.Thomson の電気素量の決定へとつながりました。一方,RoentgenもX線による光電効果を1897年に観測しています。1902年以降に行われたP.Lenard の光電流の実験が,1905年に A.Eisteinが発表した「光量子説」のきっかけとなりました。これらの歴史的な発見を土台として光電子分光法が確立していきました。
光電子分光法には,使用する励起光によってXPS(化学分野ではESCAと呼んだほうが通りがよい)とUPSとがあります。UPSは,物性に関与する電子の情報が得られるにもかかわらず,測定時に高真空を要求され,試料の取り扱いが困難なため化学においてはマイナーな分光法です。さらに有機物の測定となると蒸気圧が高いため,高真空維持側からは敵視される存在です。
今回は,光電子分光法,特にUPSについて測定の原理から得られる情報まで詳しくご紹介します。また,現在,佐賀県鳥栖市にシンクロトロン光実験施設が建設中であることを踏まえ,シンクロトロン光を使った光電子分光法についてもご紹介いたします。


第9回
高温・高圧物質の並列化分子動力学シミュレーション
日時:平成15年6月13日(金) 14:30~
会場:理学部3号館321講義室
講演者:物理科学科 下條冬樹助教授
物性物理分野における計算機シミュレーションは、物質を構成する原子核(イオン)と価電子の従う基礎方程式を数値的に解くことにより物質の構造や電子状態を求め、マクロな物性を調べる研究手法である。 最近のシミュレーション手法の発展(高精度の原子間ポテンシャルの開発や第一原理的手法の開発)により、物質の性質を高い精度で再現、予言することが可能になっている。
一方、近年の計算機の発展は目覚ましく、現在最速の計算機は、40テラフロップスもの性能(1秒間に40兆回の浮動小数点演算を行う論理性能)を持つ。 このような高速な計算機を用いて、大規模・高精度のシミュレーションを行えば、より現実的な物性予測をすることが可能となる。 しかし、テラフロップス計算機は、非常に多く(数百~数千)のプロセッサーからなる並列計算機であるため、その性能を活かしたシミュレーションを行うには、アルゴリズム上様々な工夫を要する。
本講演では、まず、代表的なシミュレーション手法である並列化分子動力学法について概説し、次に、それをSiC結晶の圧力誘起構造相転移、Al表面の酸化現象などに応用した研究例を紹介する。


第8回
鉱物-流体系のパターン形成
日時:平成15年5月16日(金) 14:30~
会場:理学部3号館321講義室
講演者:地球科学科 西山忠男教授
本コロクでは、岩石に見られる様々な構造のうち、とくに周期構造を有する非平衡組織に注目し、鉱物―流体系のパターン形成の問題として捉える。 この分野の研究の現状を紹介しつつ、演者自身のモデルを提示する。
1.なぜ非平衡組織か?
岩石形成のプロセスは本質的に不可逆過程であり、その過程が凍結された非平衡組織は岩石中で起こる結晶作用、化学反応そして熱輸送・物質移動に関する豊富な情報を含んでいる。
2.鉱物―流体系とは何か?
岩石の形成過程は多くの場合鉱物と流体との相互作用と見ることができる。たとえば火成作用ではマグマからの鉱物の結晶作用が重要であるし、変成作用においては岩石中の化学反応によって放出された水やCO2などの流体が粒間に存在し化学反応や物質移動を媒介すると考えられている。 そこで形成されつつある岩石を鉱物―流体系として定義し、鉱物と流体(マグマや熱水、粒間流体)の相互作用を議論する
。 3.なぜ周期構造か?
岩石には様々な構造が認められるが、その中で周期構造は、普遍的に認められる構造でありながら理解困難な現象として長年岩石学者を悩ませてきた。 変成岩の縞状構造と火成岩の層状構造がその代表格である。 近年、散逸構造や反応拡散系の理論の展開によって、これらの周期構造が非平衡条件下でのパターン形成の問題として注目を浴び始めている。
鉱物―流体系の周期構造を形成するには、何かしら物質が集まるメカニズムが必要である。コロクでは、いくつかの周期構造形成の具体的モデルを述べる。


第7回
特殊関数の統一理論ってあるんだろうか
日時:平成15年4月18日(金) 14:30~
会場:理学部3号館321講義室
講演者:数理科学科 木村弘信教授
特殊関数と呼ばれるある一群の関数は,数学だけでなく物理,工学などのさまざまな分野で重要な役割を果たしています. たとえば18世紀にオイラーによって導入されたガンマ関数は,階乗 n! の n を複素数に対しても意味を持つように定義された,特殊関数のなかで最も簡単で基本的なもののひとつです. 従来このような関数たちは,独立したもとしてその性質が個別に調べられていました.
今回の講演では,これらの関数の背後に隠れている群論的な構造を明確にし,単純な原理からこれらの関数を統一的に再構成して,それらの性質を論じることができることを説明しようと思います.


第6回
日本海の形成、放射起源同位体からの考察
日時:平成15年3月14日(金) 14:30~
会場:理学部3号館321講義室
講演者:環境理学科 能田成教授
題目:日本海の形成、放射起源同位体からの考察
日本海のような海域のことを以前は縁海と云った。プレートテクトニクスが定着してからは背弧海と云われていて、地球科学の世界ではその成因は重要な問題の一つである。 それは単に成因に関心が集まるだけでなく、地殻の進化に大きな役割を果たしていると考えられるからである。
日本海の形成については、寺田寅彦以来、様々な研究がある。 しかし実証的な研究が行われたのはプレートテクトニクスに基づいて地球表層の様々な現象を考察するようになった'70年代以降のことである。 乙藤、松田、能田らの古地磁気学、同位体地質学に基づく研究の成果を紹介し、今後を展望する。


第5回
生殖細胞の特性に関するアプローチ
日時:平成15年2月14日(金) 16:10~
会場:理学部3号館321講義室
講演者:生物科学科 高宗和史助教授
私たちヒトを含む多細胞動物の一生は、精子と卵子の融合(受精)により始まります。 受精した卵は、細胞分裂を繰り返して細胞を増やし、頭や手などのいろいろな器官を形成していきます。 その過程で、男性だったら精子を、女性だったら卵子を形成し、次の世代を作る準備をします。 卵子と精子はうまく受精すると次の世代となりますが、その他の細胞(体細胞)は歳をとりいずれ死んでいきます。 この様に、身体を構成する多くの細胞はいずれ死ぬのに、卵子や精子(生殖細胞)はどうして次の世代を担う能力を持っているのか、どこが体細胞と違うのかに興味を持って研究を進めています。
今回は、このテーマに対し、私がどのような方法で挑んでいるのか紹介しようと思います


第4回
有機フリーラジカルを用いる有機合成
日時:平成15年1月17日(金)14:30~
会場:理学部2号館231講義室
講演者:物質化学科 西野宏教授
有機化合物合成において炭素-炭素結合形成はもっとも重要な化学反応の一つである。 一般に、化学反応は陽性化学種(例えば陽イオン)と陰性化学種(例えば陰イオン)が静電的に引きあうことで起こる(イオン反応)。 しかし、化学種の中には不対電子を持つ中性分子(例えば空気中の酸素分子)が存在し、それらは陽性化学種や陰性化学種よりもはるかに活性で、他の化学種と容易に反応して化学結合(共有結合)を作ることができる。 不対電子を持つ化学種のことをフリーラジカル(単にラジカル)と呼び、ラジカルが関与する化学反応のことをラジカル反応という。
本講演では炭素ラジカルを用いるラジカル反応によって炭素-炭素結合形成を行い、イオン反応では達成することのできない種々の新規な有機化合物合成を紹介し、有機化学の魅力を述べる。


第3回
超イオン導電ガラス:構造とイオン伝導
日時:平成14年12月13日(金)14:30~
会場:理学部3号館321講義室
講演者:物理科学科 安仁屋勝教授
超イオン導電ガラスは、骨格部分と伝導チャンネルからなり、短距離構造、中距離構造といった階層的構造をもつことはよく知られている。しかしながら、各々の構造がイオン伝導においてどのような役割を果たしているのかはまだよく分かっていない。 中距離構造の役割を引き出す目的で、ガラスの構造解析で見られる First Sharp Diffraction Peak の波数とイオン伝導度の関係を調べた結果、ガラス中における中距離構造の相関距離が長くなるに伴い、イオン伝導度が増加するという興味深い振舞いが見出された。 今回の発表では、この振舞いを理解するためのモデルについて述べる。また、時間があれば、融体の粘度の温度依存性(フラジリティー)に対するモデルを紹介する。


第2回
液晶の数理解析と調和写像
日時:平成14年11月15日(金)16:10~
会場:理学部3号館321講義室
講演者:数理科学科 三沢正史助教授
ディスプレイなどで知られている液晶とは固体と液体の中間的な物質の状態のことである。 液晶の平衡状態は,分子の向き(大きさ1のベクトル場)に対するあるエネルギー最小化問題(変分問題)として数学的に定式化され,その最小化関数の正則性,特異性によって特徴つけられる。 また, 液晶の変分問題の臨界(停留)関数は, 2階非線形偏微分方程式の解によって記述され,調和関数の一般化である調和写像と密接に関連している。 本発表では,液晶の数理モデルを通して変分問題の数理解析(解の存在とその正則性,特異性)について説明したい。


第1回
阿蘇のふもとの古地磁気屋のお仕事
日時:平成14年10月11日(金)16:00~
会場:理学部3号館321講義室
講演者:地球科学科 渋谷秀敏教授
岩石に記録された磁化から過去の地磁気を復元する古地磁気学を試料の材料で分類すると、磁化の信頼度は高いが記録の連続性に劣る火山岩の古地磁気と、その逆の堆積物の古地磁気に分けることができる。地磁気の復元を確実なものにし、古地磁気学の利用(地塊の回転や地層対比等)を促すためには、双方の相補的な研究は欠かすことができない。
私は熊本大学に赴任する少し前から火山岩の古地磁気による古地球磁場のキャラクタライゼーションをテーマに選んでいたこともあって、裏山が阿蘇と言う状況を最大限に利用することを考えて岩石に記録された磁化から過去の地磁気を復元する古地磁気学を試料の材料で分類すると、磁化の信頼度は高いが記録の連続性に劣る火山岩の古地磁気と、その逆の堆積物の古地磁気に分けることができる。 地磁気の復元を確実なものにし、古地磁気学の利用(地塊の回転や地層対比等)を促すためには、双方の相補的な研究は欠かすことができない。